【原神】モンドの書籍
モンドで入手できる本について整理しました。
意訳したり、省略したり、勝手に副題付けたり、中国語からの翻訳に部分的に差し替えなどをして、個人的に読みやすくしています。
それぞれHoYoWikiへのリンクも記載しているので、全容が気になったらそちらも読んでみてください。
※ リンクをクリックすると下の文章が各本の内容へ切り替わります
書籍名 | 巻数 | 入手場所 |
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テイワット観光ガイド | 1巻(続刊あり) | 伝説任務 砂時計の章(リサ) 第一幕 |
モンドタワー | 全1巻 | 西風騎士団本部 団長室 |
ヴァネッサの物語 | 全2巻 | 西風騎士団本部 団長室 |
ヒルチャール習慣考察 | 全4巻 | 西風騎士団本部 団長室 |
侍従騎士の歌 | 全2巻 | アカツキワイナリー |
清泉の心 | 全4巻 | 清泉町、鹿狩り、団長室、ワイナリー |
酔っぱらいの逸話 | 全4巻 | アカツキワイナリー、西風騎士団本部 図書館 |
森の風 | 全2巻 | 西風騎士団本部 図書館、魔神任務序章 |
少女ヴィーラの憂鬱 | 全10巻 | 図書館、団長室、ワイナリー、鹿狩り |
蒲公英の海の狐 | 全11巻 | 図書館、ワイナリー、鹿狩り |
イノシシプリンセス | 全7巻 | 図書館、ドラゴンスパイン |
犬と二分の一 | 全11巻 | 西風騎士団本部 図書館(9巻まで)、八重堂(稲妻) |
白姫と六人の小人 | 全7巻 | 伝説任務 砂時計の章(リサ) 第一幕 |
テイワット観光ガイド 第 1巻
テイワット観光ガイド・モンド編 – 原神 – HoYoWiki
冒険者協会が発行する観光ガイド。毎回テイワット大陸の観光名所を紹介する。
この一冊は旅行家アリスがモンド滞在時の旅行記が掲載されている。
ダダウパの谷
この谷には繁栄しているヒルチャールの集落が3つある。
仮に谷の中心部の低地に、球体の転がる巨大な檻を造り、そして周囲のヒルチャールを全て中に入れれば、動き回るヒルチャールによって転がる檻はモンド城すべての製粉所5年分の動力に匹敵する、らしい。
もし年寄りと力尽きたヒルチャールを餌として加工し、力強いヒルチャールにあげれば、より大きな動力が発生すると思う。
もしかしたら、スネージナヤにある大型工場を稼働させることも夢ではないかもしれない。
私の見立ててあれば、これは実現可能な話だ。
けど、この話を図書館司書のリサさんにしたら、私を見ながら考え込んでしまった。
そして、優雅な微笑みを携えながら話題を変えられてしまった。
星拾いの崖
そういえば、風神は本当に些細なことにこだわらない神なんだろうね。
もし私が神なら、こんな複雑に入り組んだ地形を放っておけないもの!
適切な位置に、火力の十分な爆弾をいっぱい仕掛ければ、星拾いの崖のような広大な土地でも崩れ落ちるはずだ。
そうすれば、モンドの地形は今よりもずっと整然とする。
残念なことに、モンドの騎兵隊長に私の提案は却下されたが。
風立ちの地
モンド全域で唯一地形が平らな野原。
中心に近い地帯には非常に大きなオークの木が生えている。
伝説によると、ヴァネッサがそこから天に上ったらしい。
でも、私が木のまわりを何周回っても、発射装置の跡など見つけられなかった。
この辺にいたヒルチャールを捕まえて爆風で吹き飛ばしてみたが、清泉町の猟師小屋までしか飛ばなかった。がっかりだ。
鷹飛びの浜
実験の失敗によって清泉町が大混乱に陥ったため、騎士団のジンさんが私に見張りをつけた。
鷹飛びの浜以外の立ち入りを禁止されてしまい、本当につまらない。
空を飛び回っている鷹も、膨らんだ風スライムも退屈だ…そして、一番我慢できないのは何もできないこと!
けど見張り役の偵察騎士のお嬢さんは、楽しそうに子供たちと戯れている。
囁きの森
もう一つのモンドの森、あのアンバーという偵察騎士がこの辺をよく知っているらしい。
アンバーが持っている爆弾のおもちゃはとっても面白い。
もし私が改造を施せば、一撃でこの森を灰にするだけでなく、周囲の山を崩せるかもしれない。
私の提案に彼女は驚いていた。
でも爆弾ぬいぐるみは、今までにないほど良いアイデアだ。
今度、ぜひ試してみよう。
明冠峡谷
やっと騎士団のストーカーを振り切り、シードル湖の北西の岸辺でこの谷を見つけた。
古い装置が未だここを守っているけど、要所を鎮守した烈風の王の兵はもういない。
時の風があてもなく吹き、知能のないヒルチャールとしゃべらない機械の守衛だけがここに残されてる。
ヒルチャールを使った遺跡守衛を操作する実験がまた失敗に終わり、遺跡守衛がバラバラになった。
上に縛られているヒルチャールは、さらに悲惨な状況になっている…元々損傷のなかった遺跡も半分が崩れてしまった。

風龍廃墟
明冠峡谷の先に行くと、この巨大な古城遺跡に辿り着く。
ここは孤高なる烈風の王・デカラビアンが建造した城だ。
古城全体が環状になっていて、その内側と外側の間にスペースが空いている。
そこは民一人ひとりのために用意されたスペースのようだ。
古城の中心部には高い塔が立っており、そこが烈風の王の宮殿となっている。
人民のために生活の基盤を作ろうとした冷酷非情な君王、この壮大な遺跡に辿り着いた者はまだいない。
今後、ここに来た人がもっと簡単に塔を登れるよう、いくつか長い回廊を爆発させておこう。
うん、なかなかの効果だ、より古い遺跡っぽくなったね。

モンドタワー
モンドタワー – 原神 – HoYoWiki
貴族の圧政による抑圧された時代、外国の少女と不吉な兆しを背負った孤児がタワーの前で出会った。二人の出会いは悲劇的な結末を予兆しているのだろうか?
美しい歴史小説、『モンドタワー』、堂々登場!
全1巻だけど完結してないし、個人的にめっちゃ続きが気になる…!!!
バドルドー祭
遥か昔の貴族の時代、モンド城の広場には風神バルバトスを祀るための高い塔が立っていた。
実際は、貴族たちが自らの権力を誇示する象徴であった。
あの暗黒時代、平民は貴族に搾取され続け、喜びを享受できたのはバドルドー祭の限られたひと時だけ。
異国の少女イネス
ある年のバドルドー祭で、高い塔の上に異国の美しい少女が立った。
彼女の名前はイネス、遠方の遊牧民であり流浪の歌手であった。
またたく間に、貴族も奴隷も、老人も子供も、広場にいたすべての人が彼女の美しさに惹かれた。
彼女がバドルドーを投げる姿を誰もが見たかった、異国の少女の歌声を聞きたかった。
「バルバトスの祝福はみんなのものです、こんな日に悲しい顔をするのは罪です!」
そう歌い続け、イネスは祭りで得た収入を町の貧者と孤児に配った。
大主教の愛憎
人の群れに紛れ込んでいた、1人の痩せ細った男。
彼は当時の大主教、そして彼はイネスに一目惚れをした。
だが神へ捧げた信念が故、自身の抑えられぬ感情を恥ずべきものと思った。
その上、イネスの身勝手な行動と、教会にしか許されぬ貧民への施しに怒りを覚えた。
大主教の策略
「これ以上、あの子にここに居てもらっては、みんなが彼女に惑わされてしまう。こいつはいったい何の魔女なんだ?」と大主教は考えた。
そして、大司教はある計画を密かに企てた、イネスを教会に監禁し審判を受けさせるという計画を。
だが、貴族の時代にはある慣習があった。
バドルドーを投げる少女に選ばれた女性は祭りが終わった後、貴族の宮殿で三日間働くことになるのだ。
この三日間の間に、女性は貴族の保護を受けるという。
仕方なく、大主教は自分の養子であるオクダヴィを宮殿に潜入させ、イネスを誘拐することにした。
オクダヴィ
オクダヴィは生まれてすぐ産みの親に捨てられ、大主教が彼を引き取り育てた。
昔、幼かった彼は龍災を招いた不吉の兆しと思われ、暴力と排斥を受けてきた。
彼を守ってくれたのは大主教だけ。
そんな彼にとって、大主教は父のような存在。
だから、彼はほぼ無条件に大主教を信じていた。
「誰にもバレないよう、バドルドーを投げた少女を連れてきてほしい。もちろん僕の名前を出さないように」
運命の出会い
大主教の命令により、心が純粋なオクダヴィは夜闇に乗じ、宮殿客室のバルコニーに侵入した。
しかし、月光の下で少女は泣いていた。
その予想外の姿にオクダヴィの心はさざ波が立つ。
バルコニーから呆然と少女を見つめ、心を奪われた彼は自分の任務を忘れてしまうのであった。
貴族の従者の大きな声が、彼と少女の無垢な沈黙を破るまで……
ヴァネッサの物語
ヴァネッサの物語 – 原神 – HoYoWiki
モンド城が建てられて以来、広く歌われている歌。
魔龍を倒したら貴族も倒したことになってるのが、どういうことが気になる。
ヴァネッサは魔龍を倒してからの名前で、元の名前はモンドだった、って可能性あるかも。
第1巻 奴隷だった頃のヴァネッサ
貴族の圧政に苦しめられる平民
祭典までも貴族のための戯れとなり平民にとって偽りとなった
モンドは風の中を揺れる檻
貴族は恣意的に奴隷を酷使した
貴族たちは気づかなかった、己が欲望によって檻へと堕ちることに
南の平原からやって来た異国の少女は
自由のもとに生まれたが、貴族に囚われてしまった
それでも彼女は信仰を諦めず、モンドと自由のため祈り続けた
第2巻 バルバトス降臨
ついにバルバトスは、この熱き祈りに応えた
少女の赤い髪を追いかけ、風神は牢獄に降臨した
「万物に名前あり」いたずら好きの彼の者はそう言った、
「君の名で詩を作りたい、」「報酬の代わりに、君と友情を結ぼう」
バルバトスの歌声に包まれて、少女は大地を蹂躙した魔龍を倒した
肥えた貴族は恐れ慄く
少女は自分の名を勝ち取った
風神の演奏の脇役として、少女は感謝の気持ちで心が溢れた
しかし、彼女のお礼を風神は断った
「君の歌だから、君が主役だ」
「ボクは君の友情を受け取り、君の名を手に入れた」
「だから、これは君の自由を謳った歌なんだ」
ヒルチャール習慣考察
ヒルチャール習慣考察 – 原神 – HoYoWiki
「ヒルチャール語の桂冠詩人」と呼ばれたモンドの生態学者、ヤコブ·マスクによるヒルチャール社会習慣に対する考察。
第1巻 ヒルチャールの社会

ヒルチャールたちは、原始社会のような村落暮らしをしている。
彼らは小さな集落で荒野の中で住まいを構える。
その集落は彼らにとって大家族のような存在だ。
一般的に、ヒルチャールの集落の中で一番権威あるのがシャーマンである。
シャーマンは集落で一番年上の者がなり、集落の「親」のような存在だ。
彼らは豊富な経験を用い、重大な問題において意思決定を行い、元素の力を駆使して自分の集落を守る。
彼らは独特な角付きの笑みを浮かべた仮面を被り、ボロいシャーマンの杖を手にし、口から意味不明な歌や呪文を唱えている。

ヒルチャールの地位を評価するのに年齢は唯一の判断基準ではない。
多くの集落では、図体が大きく、戦闘能力が優れたメンバーが自然とシャーマンにとって代わって集落の長となる。
そして、このような集落は彼らの指導の下により好戦的になる。
巨大な体と物々しい仮面の角を見れば、それは好戦的な集落の長だと容易にわかる。
ヒルチャールは知能が低く、その社会と組織はとても原始的であるが、彼らは独特の元素制御能力を持っている。
この能力は老年のシャーマンでより顕著に現れる。
一般的な人間にとって、元素の力は「神の目」があって初めて発揮できる。
ヒルチャールはなぜ「神の目」なしで元素の力を制御できるのか、更なる考察と研究が必要だ。
第2巻 ヒルチャールの精神生活

ヒルチャールも自分たちの信仰を持つが、その崇拝対象は抽象的な元素の力そのものである。
モンドを例にすると、ある集落のヒルチャールたちはモンドの民と同じように「風」を崇拝するが、風の神バルバトスではなく、自分なりの作法で抽象的な「風の力」を崇める。
同じ集落の中には、信仰の異なるヒルチャールたちが雑居している場合もあるが、彼らが信仰する元素は仮面の模様や体に塗る顔料の色によって示されている。
実地での観察によると、ヒルチャールの中で祭祀や崇拝儀式を担当するシャーマンは、自分の体と髪に様々な色を塗る。
その色は集落が崇拝する元素の力と一致しているようだ。
シャーマンが身につける衣服や飾りは、普通のヒルチャールよりさらに精巧。

シャーマンは、ヒルチャールの信仰体系で精神的リーダーのような存在である。
ヒルチャールの崇拝儀式は歌と舞いがメインで、通常はシャーマンが舞いのリードをし、元素の讃歌を唄う。
獲物に余りがあれば、祭壇に生肉を祭礼として供える。
ヒルチャールたちはよく金銭や宝石などキラキラした物を拾い奪う傾向があるが、肉だけが崇拝対象に相応しい供物のようだ。

ヒルチャールたちには「過去」と「未来」の概念がないようで、「今」だけを生きている。
彼らは意識的に今後のために食料を蓄えないし、亡くなった先祖たちを偲ばない。
ヒルチャールの集落では落書きがよく見られるが、あれは古い遺跡に対する拙劣な模倣にすぎず、創造性が見られない。
また、一部のヒルチャール集落は昔の遺跡に拠点を構える。
彼らは生まれながらこのような古代の遺物に謎の親和を持つようだが、今把握している情報では、彼らと失われた古代文明にどんな繋がりがあるのかはまだわからない。
第3巻 ミステリアスな独居者

ヒルチャールにも一部神秘的な力を持つ者がいた。
彼らは大きく強靭な体を持ち、元素を操り身体能力を高める事が出来る。
例えば、元素を使い防御を固めたり、攻撃力を高めたり等である。
ヒルチャールは、このような強大な力を持つ者の事を敬い「Lawa」と呼んでいた。
筆者が推測するに、これは「王」もしくは「統領」を意味する言葉だろう。
だが、この者達が部落の中で、指揮を取るような行動をする事はない。
どちらかというと、彼らは他の者を避け、単独行動をする事を好んだ。
第4巻 ヒルチャール風習の多元化ーーモンドのダダウパの谷を例に

「好肉族」は食べることが大好きで、集落の中にイノシシを飼育している。
彼らは炎スライムを利用してかまどを加熱し、大きな鍋で肉を煮込む。

「好睡族」は暇があれば居眠りする。
また、彼らはより快適な睡眠を求め、そのための小屋を建て、柔らかく暖かい獣の皮を敷いて寝る。
睡眠が充実しているからか、彼らはヒルチャールの中で最も狡猾で賢い。

「日食族」は、モンドヒルチャール集落の中で一番謎めいた種族だ。
筋肉とずる賢さより、彼らは信仰の力を信じる。
一般的なヒルチャールが信仰する自然の元素力とは違い、彼らが崇拝するのは太陽のような簡素なシンボル。
また彼らのシャーマンは他の集落のシャーマンよりも更に強い力を持っている。
集落の中央には、日食族の中で一番地位の高いシャーマンのために大きな「御座」が用意されている。
侍従騎士の歌
侍従騎士の歌 – 原神 – HoYoWiki
旧貴族時代から今に伝わる詩である。
言い伝えによると、これは「暁の騎士」ラグヴィンドの自伝集である。
第1巻 侍従騎士
街で夜の見回りをする時、同僚と上司はこう叫ぶ。
「我々は星光の騎士、頭をあげるといい!」
「星の輝きにある高貴な旗こそ、我々が守るべきもの!」
星も、旗も、私は顔をあげて見たことがない。
貴族の圧政に苦められる平民たちの苦悩する姿から目をそらせなかった。
彼らの涙に、彼らの声に、私を心を震わせた。
しかし巨大な宮殿も城も、西風が吹き荒ぶ聖なる場所も……
アリの嘆きなど誰にも聞こえない。
第2巻 ある踊り子
ある日、朝日の下、剣を歌とする踊り子がモンドを訪れる。
全身を枷に縛られていたが、彼女の沈黙の中に歌声が漂う。
それは自由の歌。
城壁の向こう、明るい夜明けを告げる歌。
それは束縛されない民が楽しく歌う歌である。
彼女は放浪楽団の暁の光。
だが貴族にとっては、その終焉を告げる存在。
かつて私は彼女に尋ねた。
「なぜ貴族に歯向かう。」
「彼らこそ、最も尊い者たちだというのに。」
「なぜ彼らの命をそんなにも尊ぶ?」
彼女の声が、新鮮な風のように響いた。
「風を友と呼ぶというのなら、」
「かつて自由を知っていたのでは?」
彼女は孤独の傾聴者に過去を語る。
神の力を持つ貴族の先祖の話、かつての天使、神々と悪龍の話、
全ての国土の神とその民の話、彼女はあらゆる伝説を歌に紡ぐ、
その歌は風に乗って全土に伝わった。
貴族の闘技場で、彼女は再び剣で歌う。
それは彼女の最後の傑作だったが、完璧ではなかった。
名もない騎士が彼女の剣を血塗れの闘技場から持ち出し、
穏やかな風が集う場所に眠らせる。
清泉の心
清泉の心 – 原神 – HoYoWiki
清泉町の狩人たちの誰もが知る伝説の物語。
第1巻 少年と泉の精霊
月明かりが降り注ぐ中、涙を浮かべた少年が泉で願いを込めて祈った。
遠くから来た精霊は、無心の泉に仮住まいし、静かに声なき願いに耳を傾けていた。
泉の精霊には、悠久の記憶もなければ、深い夢もない。
彼女たちは純水から生まれた、顔を持たない天使の末裔だった。
好奇心旺盛な精霊が泉から姿を現し、涙を通じて少年の心の声を聞き、この若くて弱い生命に興味を持った。
無言の精霊は形のない手を差し伸べて、少年の額と頬に触れた。
夜露のように冷たく、失われた祝福のように柔らかかった。
未曾有の感触に少年は驚いて顔を上げると、精霊と目が合った。
「願いを叶えてくれる?」と少年は聞いてみた。
泉の精霊はその唐突な問いかけに驚き、理解できなかったが、声を出すことができず、ただ静かにうなずいた。
少年は満足げにその場を後にした。
彼は知らなかった。泉の精霊が孤独であることを。
彼女には仲間も家族もおらず、多くの知恵も失っていたことを。
泉の水が岩の隙間から絶えず湧き出し、池に流れ込むとき、彼女は水面に映る波紋で砕けた月を見つめながら、少しずつ思考する力を得て、言葉を話せるようになっていった。
好奇心に満ちた精霊は、この世界に愛と無知を抱え、幼い魂をもって見守った。
彼女は、ベリーを盗み食いするキツネやリスを見て喜び、銀河を隠す暗雲に心を痛めた。
そして、あの夜の少年に対して、彼女の心には複雑で未熟な感情が渦巻いていた。
孤独な彼女は、少年の願いを叶える力も知恵も持っていなかった。
けれど、彼の願いを分かち合うことができ、彼の悩みから命を吸い取り、共にその想いを分かち合うことはできた。
第2巻 蜜月
さざ波の中に砕けた月明かりを見つめながら、少年は泉に心の内を打ち明けた。
彼の言葉から、精霊は彼について多くを知った。
そして彼女の沈黙から、少年は自分の信念を強めていきました。
泉水の精霊はぼんやりと理解し始めていた。
この世の美しさは月光とベリーだけではなく、嘆かわしい闇もまた、夜空を覆う暗雲だけではないのだと。
少年は彼女に森のこと、都市や高い壁のことを語り、自分の喜びや悲しみ、不安を分かち合った。
少年の話を聞いて、精霊はこの不完全ながらも新しく生まれた世界に、次第に惹かれていった。
少年が自分の無力さに悩んでいると、泉の精霊は優しく静かに彼の涙を拭った。
その涙から、彼女は泉の外にある世界をまた少し理解した。
涙は泉に流れ込み、精霊はそれを浄化して、少年に良い夢をもたらす甘い泉水に変えた。
少年は現実世界の全ての痛みを忘れ、夢の中で泉の精霊と会う。
そんな時、月光が溶け込んだ泉水の中で、眠る精霊もまた、微笑みを浮かべる。
清らかな露が少年の美しい夢を潤し、少年の夢は孤独な精霊の心を潤した。
夢の中で、泉の精霊は少年に、遠く離れた水の王国の話をし、サファイアのような故郷のことを語り、流浪者の郷愁を静かに歌い、離郷と帰る場所についてため息をついた。
そして少年は、沈黙の聞き手となり、彼女の境遇に涙し、彼女の幸せをともに喜んだ。
こうして、泉の精霊は少年の記憶と夢の中で、言葉を得た。
こうして、彼女と少年は、言葉を交わすことの喜びを分かち合う友となった。
第3巻 すれ違い
夜風が吹き止み、池に映る月が再び満ちたとき、少年は初めて精霊の声を聞いた。
精霊は生まれながらにして人間よりも繊細で敏感な存在であり、少年はその哀歌のように優しい言葉に思わず心を奪われた。
しかし、精霊はやはり人間よりも繊細で敏感な存在だった。
少年の瞳を通して、隠しきれない思慕と、今にも口にしようとしている約束を見てしまった。
その瞬間、精霊は慌てふためいた。
人間の命は強く儚い。少年もいずれ成長し、やがて老いていく。
彼が未熟さと純真さを失ったとき、元素の純粋なる末裔である自分をどう扱うだろうか?
そして、年老いたときに、かつての幼い約束のせいで自らを責めたりしないだろうか?
泉水の精霊は純粋で善良だったが、人間の「愛」を理解してはいなかった。
彼女は人の奇跡を目にしたことがなく、千年・百年の変化すら取るに足らないものとして見ていた。
ゆえに、彼女は「別れ」をことさらに恐れた。
人間から見れば奇跡のような長年の時も、元素の精霊にとってはほんの一時の美しさにすぎない。
そして、愛する者の老いは、精霊の力をもってしてもどうすることもできない。
繊細な泉の精霊は、その日が不可逆に訪れるのを見たくはなかった。
だから、少年が約束を口にする前に、口づけをして少年を止めようとした。
だが、愚かな少年は、その拒絶の口づけを、約束を受け入れてくれた印だと勘違いしてしまった。
その瞬間、精霊は「いつか必ず少年のもとを去る」と決意した。
その瞬間、少年は「永遠に泉のそばにいる」という誓いを立てた。
第4巻 2人の孤独
時は流れ、やがて少年は成長し、新たな友を得て、新しい経験を重ねていった。
泉の妖精は、彼が若かったころと同じように、変わらず静かに、彼のために優しい哀歌を一つひとつ歌っていた。
そしてついにその日が来た。
彼女は去り、もう少年の方を見つめることはなかった。
泉のせせらぎから言葉があふれることはなくなり、さざ波に砕かれた水面の月がひとつに戻ることももうなかった。
ふと泉の精霊は気づいた。
居場所を見つけ、儚くも幸せな時を味わったけれど、自分はやはり孤独なのだと。
少年ではなくなった少年は、精霊が姿を消したことに気づかず、その孤独を自分のせいだと考えた。
「きっと、あれは子供の頃の幻だったんだろう」
そう思いながら、彼は泉のせせらぎに耳を傾けた。
しかし、あの冷たいキスは本物だった。
かつて彼女の長い髪を弄んだ夜風のように、本物だったのだ。
ふと彼は気づいた。
どれほど多くの新たな友と出会い、別れ、数えきれない冒険をしても、自分はやはり最後には孤独なのだと。
こうして、あの頃と同じように、彼の涙は澄んだ池に落ち、砕けた月を濡らした。
だがもう、泉の精霊が約束通り現れることはなかった。
彼女は頑なに背を向けた。
自分を、子どもの頃の無垢な夢だったと思ってくれてかまわない。
遥か遠い異国からきた、たまたま立ち寄った旅人として受け止めてくれてかまわない。
しかし、自分のほぼ永遠に近い命を使って、愛する人の約束を裏切ることは、決してしたくなかった。
(ずっと一緒にいたら苦しめる=裏切ることになるから、あの約束は幻だと思っていて欲しい)
言い伝えによると、雨が激しく降るたび、池に落ちる雨粒の中には泉の精霊の涙が混ざっているという。
少年がついに老いて死ぬ日まで、彼はこの根拠のない言い伝えを心から信じていた。
しかし――
自分の本心から逃げた泉の精霊自身もまた、それが事実であることを否定できなかったのだった。
酔っぱらいの逸話
酔っぱらいの逸話 – 原神 – HoYoWiki
モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ
第1巻 狼の森と酔っぱらい
伝説によると、モンドのある時代に有名な酔っ払いがいた。
ある日、飲み終わった酔っ払いはふらふらと間違って狼の森に突っ込んでしまった。
今の奔狼領はすでに王狼の領地、理性ある者は大半森の殺気で逃げ道を選ぶ。
北風の王狼が狼たちの魂を集めて、外部からの侵入を防ぐためであると、年をとった狩人は言う。
遥か昔の時代。群狼の領主がまだ北風とともに森へ訪れ、狼族に秩序と平和をもたらしていない時代。
森は狼たちが争い、血にまみれた遊戯をしてきた場であった。
こうして、モンドの有名な酔っ払いは狼の森に突っ込んだ。
あっという間に、緑色の光る目が彼を狙った。
それは一匹の狼。狼は酔っ払いの後ろをつけながら心の中で囁いた。
「これは怪しいぞ!」
数百年の間に、狼の森に入ってくる人間は一人もいなかった。
たとえ傲慢な貴族であっても、面倒にならないよう、奴隷をこの森に流すことを拒んだ。
「なのにこいつ、一人でここまでくるとは、実に怪しい!」
狼はこう思いながら、酔っ払いの酒気を耐えてその後ろをついていった。
第2巻 遭遇
周知の通り、狼の嗅覚人間より数万倍敏感である。
獲物を追いかける途中で、狼は酒気にいぶして、緑色の目には涙が留まった。
酒は時に人を狂わせ、時に人の感覚を繊細化した。
原理は不明だが、酔っ払いは自分につく狼に気づいてしまった。
「だれだ、お前もトイレを探しているのか?」
酔っ払いは眠そうに目をこすりながら言った。
「人間、お前こそだれだ?すごい臭いぞ!」
狼は鼻をひくつかせ、歯をむき出しにして威嚇するように答えた。
しわがれている狼の声に、酔っ払いは恐怖より、興味を感じた。
「おいおい友よ、どうやら何か気に障ったようだが……モンドの古き伝統によれば、酒の席で一番いけないのは退屈なんだ。今夜は月もきれいだし、ひとつ話を聞かせてやろうじゃないか。」
そう言って、彼はひとつ酔っ払いらしいゲップをした。
孤狼は、くだらない酔っ払いの戯言など無視して、喉を噛み切ってやろうかと考えた。
だが、その鼻につく酒臭さのせいで食欲がわかず、結局しぶしぶ言葉を返した。
「フン、思えばそんなにお腹が減っているわけじゃねぇし……お前の戯言に付き合うか。」
酔っ払いが背伸びをすると、蒲公英が何本か舞い上がった。
そして、彼は今夜の物語をはじめた。
第3巻 酔っ払いは語る ― 王狼と少女
遥か遠い荒原の上に、一匹の狼がいた。
やつはかつての王狼、自分の群れを率いて郷土を探し、狩りをし、戦っていた……あの頃の生活はやつの体に数多くの傷を残した。
やつは群れを率いて野原と古びた宮殿の廃墟を通り過ぎ、魔物と仙霊の領地を駆け抜けた。
荒原は残酷な地。
王狼が老いていくにつれて、群れは少しずつ散り散りになり、長い歳月の末に、群れに残されたのは衰えた一匹の老狼だけだった。
伝説によると、荒原は神が存在しない地。
古の魔神が残した亡霊の残骸と仙霊たちが去った空虚な宮廷のみ。。
孤独な老狼が灰色の宮殿の前を通りかかる時、音楽がやつを引きつけた。
「これほどの美しい響を耳にしたことがない。空腹さえ忘れてしまいそうだ。」
そうして狼は、灰色の大広間へと足を踏み入れた。
雑草の生い茂る床を踏みしめ、砕けた石棺を通り過ぎた。
そこには今も、かつての主の肖像がはっきりと残っていた。
やがて彼は、奥の部屋で音楽を奏でる少女に出会った。
彼女の肌は灰のように白く、伏し目がちのまなざしと、繊細な指先でリュートの弦を爪弾きながら、すでに忘れ去られた哀歌を奏でていた。
狼はその少女の前に腰を下ろし、一時、飢えも孤独も忘れて、少女の声なき歌に耳を傾けた。
「昔日の秋夜の蝉の声は、追放された者の詩であり、人類最古の歌であった。
「彼らはすべての形と神が宿る故郷を失い、残されたのは歌と思い出だけ。
「最後の歌い手、最初の仙霊が終わりの曲を奏で、天使の広間に座っていた。」
その歌声に引き寄せられて、森の中で遊ぶ小さな仙霊たちも次々に姿を現し、少女に敬意を表した。
「何の歌だ?」
狼は首をかしげた。彼には歌のすべての言葉、意味、旋律が理解できた。
だがその言語は、どの生き物とも違っていた。
「仙霊の歌です。」
少女は静かに答えた。
「遥かな昔、私たちが荒地の人間のために作った歌です。今では、私たち自身の運命を嘆くために歌っているんですけど……」
それから狼は、少女の旋律に合わせて、不器用に声を重ねた。
その声は荒れていて、切なく、哀しみに満ちていた。
「何を歌っていますか?」少女が聞く。
「俺たちの歌だ。」狼が応えた。
「聞き苦しいです。」
リュートの弦を軽く弾きながら、少女は容赦なく言い放った。
「でも、一緒に歌いましょうか?」
こうして、狼と少女の合唱が古の宮殿のホールで響いた。
今でもその地を通りかかる冒険者はその奇妙な歌声を耳にすると云う。
「それで終わりか?」
狼は少し物足りなさそうに唇をなめた。
「なら今度は、俺が話を聞かせてやる。」
そう言って、狼は喉を鳴らして咳払いをし、自らの物語を語り始めた――。
第4巻 狼は語る ― 酒の発明と狼
言い伝えによると、モンドで最初に造られた酒は、北風が荒れ狂う時代に生まれたという。
氷霜の王たちが争う時代、吹雪の中を生きる先人たちは、野生の果実を粗く醸し酒にし、凍傷の痛みを逃れるため、そして氷霜に立ち向かう勇気を得るために、それを飲んだ。
あの時代には、モンドの大地はまだ雪と氷に覆われ、タンポポすら地面から顔を出していなかった。
モンドで初めて酒を発明したのは、一人の慌て者だった。
氷雪に閉ざされた部族の中で、彼は狩猟や農耕が困難な時期の食糧を見張る役を担っていた。
人の姿が少ない氷原であっても、寒さに強い小動物たちが地中にトンネルを掘って地窖に忍び込み、保存食を盗むことがあったため、部族には常に見張り役が必要だったのだ。
食料貯蔵の洞窟を巡回し、ネズミが掘った穴を塞ぎ、あるいは現行犯で捕まえて食用肉に加えることもあった。
湿気で食料が腐敗しないよう、当時の湿った洞窟では細心の注意が必要だった。だが、時には小さな精霊が、ささやかな悪戯を仕掛けてくることもあった。
慌て者がいつものように怠けていると、風の精霊が狐の姿になり、果実の山に潜り込んだ。そして、酵母を発生させ、果実を発酵させた。
腹を空かせた慌て者が食べ物を取りに来ると、発酵した果実の濃厚さにすっかり酔いしれた。
そして獣皮で果実を搾って汁を取り出し、それが酒となった。
雪原で酒を発明した慌て者は、モンド最初の酔っ払いであった。
そして彼は、酒に酔った最初の夢の中で、自分が一匹の孤狼になったという。
それは遥か昔、あるいは遥か未来のどこかの時代であった。
彼は他の群れの狼たちと命をかけて争い、人間と食物を奪い合い、やがて最初の仙霊と出会った。
集団で暮らす人も、群れで生きる狼も、どちらも孤独を嫌う生き物だ。
だが、酒の出現は、彼らの夢を繋げてしまった。
しかし、両者の夢に対する反応は真逆であった。
人々は荒野を駆ける孤狼に憧れを抱いたが、一方の孤狼は人間の欲望に満ちた夢に恐怖を覚えた。
狼には、なぜ人が危険な幻の中に溺れ、希望を見出そうとするのか、理解できなかった。
そして何より狼が恐れたのは、人間の夢の中で。自分が狼であるのか、または狼の魂を宿す人間なのか、もう判別できなくなったことだった。
こうして孤狼は、人間の「毒物」である酒を遠ざけることを誓い、酒の誘惑を断ち切った。
狼は風の民ではない。彼らの故郷には、酒も、牧歌も存在しない。
だから、狼は人間の領域から離れ、荒野や山林の中、酒の香りが届かない地で暮らすことにした。
「これがお前達が酒と呼んでいるものと、狼の因縁だ」
狼は酔っ払いに向かって得意そうに言った。
しかし見ると、酔っ払いは既に柔らかな松葉の上で、ぐっすり眠っていたのだ。
狼は呆れたような息を吐き、酔っ払いをおいてその場から離れた。
森の風
森の風 – 原神 – HoYoWiki
数百年前の学者たちはモンドの数多くの無名の吟遊詩人の詩を整理·記録し、それらを集めて詩集『森の風』を出版した。
これに関しては魔神任務でのウェンティの歌に補足する形の動画作ったので気が向いたら見てください。
【原神】序幕2幕の歌と森の風
ある人の注釈ってのは多分リサさんだと思うけど、信仰を失い神殿の管理を疎かにしたから風龍が激おこなんだって思ってたんだね。
第1巻 森の風・ベストコレクションざっくり
——物語抜粋集——
『森の風』と『湖の風』は二冊の叙事詩集。とある学者たちがモンドの有名ではない数多くの吟遊詩人の詩篇を整理し、この二冊にまとめた。
吟遊詩人は観客からモラを貰うため、詩の内容を誇張または捏造しており、内容としては信憑性が低い。だが、その美しい想像力と才能溢れる表現力は、千の風と時間を越えた今でも伝わっている。
……
大昔に風龍は空で生まれて、この世にめっちゃ興味を持ったんだけど人々の恐怖や怒りなどを全然理解できなかった。
天空のライアーの音色を聞いたその日、龍は詩に惹かれ、世界一の詩人の隣に舞い降りた。
人々は恐慌に陥った。古来より強大な元素を秘めた龍と、世界を司る神々は上手く共存した試しがないからだ。
龍は万物に自身の心を理解してもらうため、詩人のそばにいると決めた。彼は人間の言葉と風の詩人の御業を覚えた。
……中略……
後世の人々は、彼がモンドの四風のひとつであると考えた。
「古国に黒日が訪れ、明珠はその輝きを失った」
「色が失われた黄金、白い織物は黄昏に染まった」
カーンルイアで黒日王朝が滅ぼされ、災難が城壁を突き破り大陸へと蔓延した。
「黄金」と呼ばれた錬金術は罪人へと堕ち、漆黒の魔獣を大量に生み出した。
この中の1匹が悪龍「ドゥリン」であり、モンドへやってきた。
なんやかんやで風龍が戦って勝ったもののかなりの負傷。
モンドを守った、これで人々が自分のことを理解してくれると思い、風龍は長い眠りについた。
第2卷 森の風拾遺集・龍の書
叙事詩集『森の風』の補足説明集。資料は様々な文献から抜粋したもの。
モンドの龍の物語について説明している。
——龍の書物——
マスクの著作『風の国土の文明と習俗考察』より抜粋、『風土と人情誌』を通訳。
……
北風騎士の「狼」、蒲公英(獅牙)騎士の「獅子」、西風騎士団の「鷹」、そしてトワリン——「風龍」は古くから「四風守護」と見なされてきた。
獅牙騎士がモンドを解放し、西風騎士団が設立され北風騎士が入団した後、「四風守護」の伝統がモンドで形成された。
そして、トワリンは遥か古より守護の一つとなっている。
数百年前、大陸全土が混乱の時代を経験した。
暗黒の力が広がり、至るところが侵蝕された。
数多くの蛮族が存在し、魔獣が大地を蹂躙した時代。
人間の生活圏は城壁の内側まで圧縮され、外は危険に満ちていた。
その頃のモンドは苦しみに包まれていた。
獅牙騎士の伝承者に相応しい人物が見つからず、西風騎士団も苦戦により人材を多数失う。
その時、強大な腐敗魔獣、毒龍「ドゥリン」がモンドに襲いかかってきた。
モンドの人々の祈祷が最後に風神の意志を呼び起こし、そしてこの意志がまた風龍「トワリン」の召喚に至らせる。
風龍はモンドの最後の守護者として、ドゥリンと死闘を繰り広げた。
戦いの結果は明らか、ドゥリンの骸骨は未だモンド南部の雪山に眠っている。
だが戦いの過程は今では解明できない。噂によると、風龍が毒龍ののどを噛みちぎり、もろとも空から落ちた。
ドゥリンの骸骨は寒天の雪山に落ち、トワリンは風神に召還され、長い眠りについたとされている。
……
人々は信じていた。いざという時には風龍が目覚め、モンドを守ってくれると。
だが安寧の時代に、四風守護の信仰はもう不要、四風守護それぞれの神殿も荒れたままとなっている。
【ある人の注釈:騎士団と幾度となく戦った見知らぬ害獣「風魔龍」が、かつての四風守護トワリンだと気付いた時には、憎しみに駆り立てられた感情はもう和解できない段階まで進んでいた。百年に渡った眠りから目覚めたトワリンは間違いなく、この町の裏切りを感じているだろう……】
少女ヴィーラの憂鬱
永遠の少女ヴィーラと成長する幼馴染のサッチ。
それをサポートする時の大魔術師エイクと支配種族のバジリクス姫。
そんな4人の壮大なSF物語。
第1巻 百億の世界と百億の昼夜
私は世界が退屈だと思ったことはない。ただ面白い物事はすべて遥か遠くにあるだけなの。
——未知なる遠方に憧れる平凡な少女ヴィーラ。壮大な冒険の物語が静かに幕を開ける。
「時々思うんだ。この町って、退屈すぎるんじゃないかって」
小さな町デルポイに住む平凡な少女ヴィーラはまたぼやいている。
彼女は町の近くの丘に寝転がり、目を閉じて初夏のそよ風を感じていた。
「じゃあ、どんな場所なら退屈じゃないって思うんだ?」
彼女の親友である少年サッチが、隣に座って尋ねた。
ヴィーラは前屈をするような姿勢で上体を起こした。
「私は信じてるの。星の海の彼方に、すべての祈りと願いに応えてくれる神様のいる星があるって。願いを胸に抱いた人たちが、その場所を巡礼するために集まってくるのよ。あと宇宙のどこかに世界の終わりと戦う星があって、14名の戦乙女たちの崇高で美しい魂が、短くも鮮やかに燃え上がってる……」
「君、変な小説を読みすぎだよ」
「ああああっ……ここって本当につまんない。何か面白いことないかな?」
「そう言えば、最近町に引っ越してきた人がいるけど……」
「そういう事じゃない!」
……とは言ったものの、ヴィーラはやっぱりその家を訪ねてみることにした。
……
ヴィーラは新しい住民の家を訪れ、扉をそっと開ける。
「誰かいませんか?」
と、その時、突然リビングにある戸棚が突然勢いよく開き、メガネをかけた黒髪の少年が飛び出してきた。
そして、彼と共に青い粘液を纏った触手も姿を現す。
「くっ、通すか——! おい、タール、どうして勝手に人を入れたんだ?」
黒髪の少年はヴィーラを軽く押しのけ、ドア近くにあった斧を拾い上げた。
「仕方ない、見られた以上はこうするしか——」
ヴィーラ、人生最大の危機か!?
第2巻 俺の庭は宇宙より広い
いつも退屈だと感じているけど、それは別に憂鬱ではなく、14歳になったから。
とにかくヴィーラの冒険は、ここに幕を開ける!
「あんたに手伝ってもらうしかない」
黒髪の少年は「エーク」と名乗った。彼はヴィーラに包丁を手渡す。
彼は棚の前に戻ると、猛然と触手を切り刻み始めた。
「ドアを閉めろ、もし触手が攻撃を仕掛けてきたら、その包丁で身を守るんだ」
そう言ったエークの眼鏡は青い粘液に染まっていた。
「急げ! デルポイにこの邪神を降臨させてはいけない」
ヴィーラはドアを閉じる。
触手の猛攻をさばいているうちに、エークの背中には刺し傷が二箇所。
幸いにも、エークの治癒魔法により傷は癒えた。
「ああ、実は言うと、俺は1000年生きているんだ。このドアは宇宙のありとあらゆるところに繋がっていてな。さっきのは大マゼラン星雲の古の神だ、そこである物を拝借しようと思ったんだよ」エークの全身は粘液まみれだった、
彼はヴィーラのスカートで眼鏡の汚れを拭き取る。
「で、他に聞きたいことはあるか?」
「タールって誰?」ヴィーラは、あまり興味なさそうに尋ねた。
「あいつは人喰いの古城の悪霊だ。俺の支配下に入ってからは、ずっと執事を務めてくれている。どうして彼が、お前に親切なのかは謎だけどな」
ヴィーラの両親はずっと「人はいずれ自分の家庭を築き職を得る。遠方への憧れは永遠に叶わない」と口を酸っぱくして言ってきた。
親友であるサッチは「君みたいな活発な子が遠方に嫁いだら、この町が寂しくなるな」と言った。
(サッチの場合、ただ単に貧弱だから、男友達にいじめられると思って言っただけかもしれない。)
「人間はまだ幼く夢の中にいる、俺はお前たちを現実と成長の世界へ導く必要がある」
エークは招くように、ヴィーラに両手を伸ばす。
「君たちは歌を口ずさみながら進み、ついには“青春”へとたどり着くことになる」
オリオン座から永遠の魔神の城へ、時間の奔流を抜け、星海の輝く深淵へと……
「どこからが“遠く”って言えるのか?宇宙のどこだって俺にとっては家の裏庭みたいに退屈だ」と彼が言った。
「“遠く”の尺度は、心によって変わる」エークは続けて言う、「俺の心は宇宙よりちょっとばかし広いぞ」
第3巻 孤星を盗んだ者
アンドロメダ座の帝国は広大な領土を持っていて、この銀河のほとんどを支配している。
どの惑星にも、それぞれの悪魔と神々、海龍と怪獣がいるの。
「私はあなたのところで輝く星々のすべて一つ一つに、物語を考えたことがあるんだよ。」
「そんなのありえないよ。ここから見えるアンドロメダ星雲は、月の五分の一の大きさしかないんだから。」
少女ヴィーラの冒険はまだまだ続く!
「余はアンドロメダ座帝国の第二皇位継承者、名前は200文字以上。とりあえず、余のことはアンドロ・バジリクス姫と呼ぶがよい」可愛らしい少女が腕組みをしていた。
先ほどの登場シーンを思い返しているのか、満足げに小さく「ふふふっ」と笑っている。
姫様がデルポイに来た目的は、エークと結婚するためだった。
「宇宙の四分の一にその異名を轟かせるあんたと結婚すれば、姉が即位した後の余の身が保障されたも同然」
「その、アンドロメダ座帝国ってどのくらいの大きさなの?」とヴィーラが聞く。
「居住可能な惑星は9000を超えてるかな」
——そんなにたくさんの星を持っているのに、どうして私の輝きまで奪おうとするの?
「ねえ、ヴィーラを傷つける気じゃないよね?」サッチは、巻物と惑星の天体儀を運ぶエークにおそるおそる尋ねる。
「もちろんだ。彼女は俺の助手に向いてると思っただけだ」荷物を置き、手についた汚れを落としながら言う。
「お前、あいつのことが好きなのか?」
「ぼ、僕に、そんな気はないよ」サッチは1000年を生きた賢者に心を見透かされるのではないかと恐れ、視線をそらした。
すると、サッチの目にアルバムがたくさん詰め込まれた箱が映る。
彼が何気なく何冊か手に取り中を見ると、そこには多種多様な美女たちがいた。
「あー、それか。そこに写っている女たちが、『私の唯一の愛をあなたに捧げるわ!』とか言ってきたんだが、本当に唯一だったんだか。どうせ過去にも、同じようなこと言ってきてるんだろうな」
その言い草にちょっとイラっとしたサッチは、どこで聞いたか覚えていない言葉をふと思い出し口にした。
「そんなにたくさんの星を持っているのに、どうして僕の輝きまで奪おうとするんだ?」
第4巻 光り輝く全てのものは
「輝くものは必ずしも金であるわけではない、失恋で砕けた心かもしれない」という言葉がある。
とにかく、空に輝く星々は金ではないし、大抵の人の心はガラスでできているわけではない。
こうして、ヴィーラの冒険は新章に突入する!
「この写真に写っている人達、みんなとても綺麗ね」ヴィーラはエークの箱を持ち上げた。
箱の中はアルバムでいっぱいだった。
「綺麗じゃなければ、記念に写真を残そうだなんて思わないよ」
エークは何か包み隠すことはしない。彼は千年以上生きている宇宙の賢者だ。
女の子が簡単に気付く事も、些細な事で癇癪を起こす事も知っている。
エークは決して女の子を騙さない、男性の鑑だ。
「星を見たことがあるからこそ、人は星の形をしたダイヤを記念に作る。」とエークが続ける。
「でも、宇宙に輝くあの星々は、誰のものでもない。だから“星を奪う”なんてこともない。」
ヴィーラは意味が分からず「何を言っているの?」と首を傾げる。
「この場にいないお馬鹿さんに言っているんだよ。気にしないで、人間が若すぎるだけなんだ」
「君とエークの仲を取り持ってやるよ」と、サッチはアンドロメダ座帝国の姫に向かって大声で言った。
「は?」
「僕はヴィーラが好きなんだ。だから——」
「気持ち悪い。くだらない。耳が汚れるから口を開かないで。ヴィーラはもう余の友達よ。あなたのような意気地なしには渡せないわ」
「あ、あぁ……」
第5巻 神々の路上ピクニック
星々を結ぶ道路や高速道路の路肩ではピクニックをしてはいけない。
たとえ神々であっても、高速惑星移動船とぶつかれば自己責任。
一見ただの小さな村の書斎のようだが、扉を開けると宇宙や時間のどこへでも行ける!
神々とのランチ、時間との鬼ごっこ。ヴィーラの冒険は、ここから続く!
エークが昼寝をしている間に、彼の従者たちの間で大きな戦いが起こった。
偉大な魔法使いは、さまざまな神や悪魔を屈服させて従者にする。
エークは魔法使いの頂点に立つ者として、その配下にいる魔神の数は辞書の項目数より多い。
いったい誰が一番強い従者なのか?
それを決めるため、魔神たちの間で戦いが起きたのだ。
不幸にも、魔神たちは姫、サッチ、ヴィーラのことも従者だと思っていた。
エークが寝ていたのは2時間。その間に3つの星が滅ぼされた。
「余はなんで、あんたを守ってるのかな」
姫が手を伸ばし、その横で大悪魔が眼球を失って地面へ倒れた。
アンドロメダ座帝国の支配種族は見た目こそ可愛いらしいが、その手の平には敗者や恋人の目を捕食するための2つの特殊な口がある。
「私たち、友達じゃなかったの?」ヴィーラは悲しそうに言い、顔についた血を拭った。
「うんうん、そうだよ」姫は照れくさそうに目をそらす、
「前回のことで、あんたは余の唯一の友達になった。だから、さっきの言葉はヴィーラに言ったんじゃない」
「え——」サッチはその時、巨龍の口にくわえられていた。
「どうじゃ、降参か?」巨龍が老齢な声で聞いてきた、
「自分たちは下衆で無能な輩じゃと認めて降参すれば、見逃してやろう」
「降参——降参するからっ!」サッチは大声で叫ぶ。
「ほざくなトカゲ風情が。あんたよりうちのヤモリの方が厄介なんだから!」姫が指の関節をポキポキと鳴らす。
「僕は関係ないのにぃぃぃ——」サッチは巨龍と共に上空へと吹き飛ばされた。
アンドロメダ座の支配種族と古代巨龍の決着は一瞬でついた。
最初から大人しく降参していれば命の危険なんてなかったのである。
サッチはリタイアし、スリッパでエークを叩き起こした。
ヴィーラも姫に守られて生き残ることができた。
「うわあ、無能の輩、見るだけで吐き気がする。下衆、近寄るな、話しかけるな、こっち見るな、同じ空気吸うな」
姫のサッチへの態度はすこぶる冷たかった。
第6巻 数多のお祭りへ捧ぐ
かつて偉大な学者は、帝国の祭りについての本を書こうとした。
だが、その帝国では毎日が祭りのようだった。
この膨大な作業量に、彼は6ヶ月で逃げ出してしまった。
作者である私は当然、みんなを裏切るようなことはしない!
近頃は大事件が続いているが、それらは全て宇宙での出来事に過ぎない。
今、比較的に平凡な出来事が始まろうとしている。
もうすぐ、この小さな町でお祭りがあるのだ。
「今度は、私がこの町を二人に紹介する番だよね?」
ヴィーラは手料理を姫とエークの前に並べる。
宇宙の冒険では、姫とエークに教えられてばかりだった。
ヴィーラが何か二人に披露できる知識があるとするなら、故郷に関する事しかないだろう。
「……それで、大王の第一使者、勇敢な騎士ホフマンは西に向かい、大陸を2つ、そして海と河を越えたの。その時、偉大な賢者である東の魔女フピン夫人は故郷を出て、死者の国の国境を越えた。そして、二人はここで出会ったの」
「そうなのね。すごいわ」姫は大袈裟に声をあげる。
このおとぎ話に全く興味がない事を、ヴィーラには悟られたくなかったのだ。
「つまり、この場所はその大王の都の星の対称点ということだろう。」エークは適当な突っ込みを入れた。
「あはははは、言われてみればそうね」ヴィーラは後ろ髪を触りながら笑う。
「私ずっとここを離れたいって思ってたの。でも結局、最も馴染みのあるのはここなんだ。」
祭りの前夜、突然その事に気付いたヴィーラは、サッチの前で泣き出してしまった!
「この馬鹿! 何ヴィーラを泣かせてるのよ!」飛び蹴りと共に登場した姫によって、サッチは飛んで行った。
第7巻 星海戦記
宇宙の片隅にある星団。居住可能な星は少なく、星海操帆士と海賊の楽園だった。
宇宙には左舷も右舷もない。恒星に着けた側を星舷と呼ぶだけだ。
少女ヴィーラの冒険は、方向感覚も消え去る星海に続く!
「再び太陽を灯す事は難しくない。でも、これはアンドロメダ座帝国はそれを望まないだろう」
エークはパニックになっているヴィーラに言い聞かせた。
「つまり、姫がサッチを誘拐したって事?」考え込んでいたヴィーラが、驚きの声を上げる。
「どう考えたらそうなるんだ。僕が言いたいのは、姫とサッチを捕らえられるのは、アンドロメダ座帝国しかないという事だ」
エークは振り返り、星系の数千もの生命を前に振り返って言った。
暫くの沈黙の後、エークは声を張り上げた。
「星に生きるもの達よ。俺は聖王リバンニに招かれ、残り少ない恒星に火を灯し続けるために来た。だが、アンドロメダ座帝国をそれをよく思っていないらしい。俺の友人は捕らえられてしまった。」
「お前は二人の命を、この世界のすべての生命よりも重んじるのか」聖王リバンニは聖座から立ち上がる。
「ならば、私はなんのために、星海諸島を統一するのだ?」
(※これは民の命を軽んじるなど何が王か、みたいな聖王リバンニの自問自答※)
最終的に、聖王は一人で死地に突入し、アンドロメダ座帝国の刺客を打ち負かした。
姫とサッチを救い出した後、彼女はエークと短い会話を交わした。
「まさか、アンドロメダ座帝国の支配種族を倒すとは。あいつらは強い。聖王の試練である聖龍討伐を成し遂げたのも納得だ」
エークは聖王リバンニを称賛する。
「実は私がその聖龍だ。リバンニの肉体と融合した後、私は彼女にずっと従っている」
「おぉ……」エークは驚きの声を漏らす。
「そう言えば、あいつが第二皇女のお気に入りなのか? 私が部屋に入ったとき、二人はちょうど……」
「なんだと!?」エークは本気で驚愕の声を上げた。
第8巻 女の子達は
女の子たちのパジャマパーティは、男子禁制である!
可愛い女の子たちは黄金時代の神々のように、神聖なものなのだ。
ヴィーラ、姫、聖王リバンニ、そしてスターワームの雌脳ウルの4人の少女による夜の語らい!
「だから全部誤解なんだよ。僕はあの時食べられる所だったんだ」サッチは説明する。
「食べようとしていたのではない」エークは眼鏡を押し上げた。
「アンドロメダ座帝国の支配種族の手の平には、眼球を捕食する器官がある」
「見た事ある……ヤツメウナギの口みたいだった」サッチは己の言葉に、体をブルっと震わせる。
「最後まで聞け」エークは己の目を指さそうとして、誤って眼鏡に指紋をつけてしまった。
彼は眼鏡を外し、改めて左目を指す。
「彼らが眼球を食べる時は、二つの意味合いを持つのだ。一つは服従……」
そして今度は右目を指さす。「……もう一つは恋慕」
サッチは自分の両目に触れながら、自分に向けられたのはどっちの感情なのかを考えた。
「正直、姫自身もこの二つの違いを理解していないだろう。姫に服従する者、姫が征服したもの、姫を愛する者——姫の目にはどれも同じように映っている。皇室の権力争いで、己に危害を与えない存在でしかない」
「それでアンドロメダ座帝国の刺客は、姫も誘拐したのか。まさか、裏には他の継承者がいるとか!?」
「俺は継承者争いに巻き込まれるのはごめんだ。だから、あいつはお前が支えてやってくれよ」
「だーかーらー! 僕とあいつはそんな関係じゃないって。あいつ、僕の事が大っ嫌いなんだぞ?」
その頃、女の子達は何を話していたかって? それは永遠の謎さ。
第9巻 深海の断魂古神殿
「ヴィーラはあんなに綺麗で、宇宙でも輝いているのに、僕ときたら……」
「この年代の男の子は女の子よりも小さく見えるものさ。」
青春にたどり着き、子供時代に別れを告げなければならない!
今から主題を示しても遅くはない、少女ヴィーラは本当に憂鬱になり始めた!
ヴィーラとサッチが成長するにつれ、4人の関係には微妙な変化が訪れていた。
「もう君の言い訳にはうんざり」サッチがエークに向かって言った、
「たとえ君がヴィーラにそんな感情を持っていなくとも、ヴィーラは君と一緒にいたいと思ってる」
エークは遠方の象徴で、未知と新鮮さの隠喩である。
勇敢な鳥は一生巣を築くことがなく、恋慕の風と共に生きていく。
エークはサッチに答える、
「どう考えても、1000年を生きた者じゃ年寄り過ぎて釣り合わないだろう」
「余の年齢とぴったりじゃん」と姫は嬉しそうにすすっと近寄ってきた。
勇気を出して告白しようとしたサッチに、残酷な運命が待ち受けていた。
覚えているだろうか。
第一巻でエークとヴィーラが古神からもらった古い剣のことを。
あれはエークが運命の歯車を回すために手に入れた鍵であった——今、ヴィーラのこの剣で指を切り、凶悪な古代のウィルスに感染し死んでしまった!
「君のせいだ!」サッチはエークの襟首を掴んだ。
普段のエークならとぼけて笑うだろう——彼の性根は善良で温和な老人なのだから。
でも、今回はサッチの手を払いのけた。
「あんたは時間を巻き戻すことができるんでしょ? ヴィーラを助けて!」
姫もエークへと嘆願する。
「お前らはわかっていない。過去を救えるのは未来だけだ。過去を変えるだけでは、ヴィーラのいない未来を救えないんだよ!」
エークは血が滲むほど唇を噛む。
「あるところにこんな神話があった。白銀時代の人類は幼少期が非常に長く、それは200年以上も続いた。その結果、短い成人期に苦難をもたらしたという。」
他の人にとって、幼少期はすでに終わりを告げているが、青春はまだ手が届かない場所にあった。
ヴィーラのいない『少女ヴィーラの憂鬱』、また次回で!
第10巻 少女ヴィーラの憂鬱
「もう十分よ。私たち、家に帰りましょう……私が最も遠くに感じる場所、それはあなたのいるデルポイなの。」
今さらの説明だが、小さな村デルポイはギリシャ神話の世界の中心だ。
『少女ヴィーラの憂鬱』、無事完結……か?
ヴィーラを生き返らせるため、サッチ、エーク、姫は20年に渡り壮絶な冒険を繰り広げた。
戦ってきた相手は地獄大君から星を呑み込むスタードラゴン。
3人はついでに2つの星系と銀河帝国をなんやかんやで救い、星にとって極めて害悪な4種の害虫を駆除した。
蘇ったヴィーラは、歴戦の宇宙英雄サッチに抱き抱えられていた。
二十年の時の流れは、アンドロメダ座の支配種族にとって大したものではない。
姫は相変わらず可愛かった。ただ彼女の表情は微妙なものであった。
心からの喜びだけではなく、そこには悲しみの色も混じっていた。
サッチは目を一つ失い、体は強靭に、身長もかなり伸びていたが、相変わらず泣き虫であった。
彼の涙でヴィーラの肩が濡れている。だが、サッチはもう簡単には諦めないと心に誓っていた。
エークには何の変化もない、いつものように淡い微笑みを浮かべていた。
「俺はただの時間の響きだ」エークは儀式の準備を進める。
「以前言ったように、過去は未来を変えられない。予定調和の法則は俺より少しだけ強い。
だが無限の可能性に満ちた未来なら世界を救うことができる」
エークは、サッチを旅に出た頃の20年前の少年の姿に戻し、一緒に彼らが旅立った日へ戻った。
4人はまるで何事もなかったかのようにしていたが、もうあの無邪気な日々には戻れないことを誰もがわかっていた。
「幼少期を失わせてしまってごめん。ほら行こう、これはお前が過ごすべき青春だ」エークはサッチにこう言った。
「君のために宇宙であらゆる不思議を経験してきた。僕の幼少期はもう終わった。」
サッチは運命の人に向かい、勇気を振り絞って言った、
「君がいなければ、僕はこの青春に辿り着けなかった。」
返事はいったいどうなるか!
作者は9巻目までの印税で夜遊びに行っています。星のどこかで見かけたら、ぜひ催促してください。
蒲公英の海の狐
蒲公英の海の狐 – 原神 – HoYoWiki
忘れられないモンドの童話、狩人とキツネの物語
第1巻 子狐の願い
「蒲公英よ、蒲公英よ、風と一緒に遠くへ行け」
子狐が唱える。
そして、蒲公英に息を吹きかけ綿毛を散らした。
「これで先生の願いを、風が風神まで届けてくれるよ」
その時、一陣の風が吹き、大量の蒲公英を連れて行く。
俺の夢を連れて、どこか楽しい場所に行くのだろうか?
いつの事だったのだろう。
昔、村の裏に小さな林だった。
林は木々がうっそうと茂っていて、その中心に小さな湖があった。
湖は、モンド大聖堂のガラスのようにピカピカだった。
木の葉から透けた太陽が水面を照らし、砕いた宝石をちりばめたように美しかった。
それは肌寒い日だった。
弓を背負い林で狩りをして、いつの間にか湖の側まで来ていた。
輝く水面を見て、なぜか遠い昔に片思いしていた子のことを思い出す。
その子がどんな人だったのかは忘れてしまったが、なぜか彼女の瞳はこの湖のように、輝く宝石がちりばめられていた気がする。
俺はきっとこの輝く湖に気を取られてしまったのだろう。
狩りの最中である事も忘れて、水辺をゆっくり散歩していた。
何かが凍り付いた音がして、はっと我に帰る。
見ると、水辺に霧氷花が一束落ちおり、周辺の水が凍っていた。
その側で、一匹の白い狐が、氷に捕らわれた尻尾を恨めしそうに見ている。
「水を飲んでいた時に、うっかり尻尾で、霧氷花周辺の水に触れてしまったのか」
霧氷花は危険な植物だ。一歩間違えれば、凍傷を負ってしまう。摘む時は、細心の注意が必要だ。
私を見た狐が逃げようと足掻いた。
だが尻尾が氷にくっついているため、動くと痛みが走り声を鳴らした。
(これはダメだ…)
俺は思う。
(可哀想に。このままでは餓死してしまうな。それなら楽にして、今日の収穫にしてやろうか)
自家栽培した大根と一緒に煮れば、さぞかし美味い鍋が出来るだろう。
考えただけでやる気が満ち溢れ、気分も晴れる。
俺は弓を取り出し、ゆっくりと近付いた。
「いい子だ、動くなよ」
第2巻 狐と狩人
「いい子だ、動くなよ」
これは、俺の親父の親父が教えてくれたまじないだ。
狐を狩る時は、この言葉を唱えれば弓を引く手が震えない。
矢を放とうとした時、狐は頭を上げ、俺を見据えた。
その目は湖のように輝いており、砕かれた宝石が散らばっていた。
俺の心は、突風に吹かれたように乱れた。
放たれた矢は曲がり、狐の尾を閉じ込めていた氷を砕いた。
狐は尾を上げ、俺を一瞥すると、林の中へと駆け込んだ。
我に返った俺は、すぐに後を追いかける。だが、人が狐に追いつくわけがない。
狐の後ろ姿がどんどん遠ざかり、白い点になる。
「おい! に、逃げるな——」
俺は叫ぶ。息をするのも精一杯だった。
でも俺の叫びに、白い点が僅かに速度を落とした。
(俺を待っているのか)
そう思った。
(逃るつもりなら、とっくにいなくなっているはずだ)
狐は不思議な生き物だ。
障害物のない広い場所で走っていても、気が付くと姿が消えている。
まるで、違う世界へ行ってしまったように。
俺は確信する。
(あの白狐は俺を待っている、絶対にだ)
狐を信じて、白い点をひたすらに追いかけた。
走っていると、不意に風が吹いた。
身震いして、再び顔を上げる。
「おかしいな」
白い点は二つになっていた。
そして三つになり、四つになる。
風が吹くにつれ増えていき、やがて数え切れなくなった。
その瞬間、一つの点が俺の目に飛び込んで来た。
痛みに目を擦ると、辺りの白い点が全て、漂う蒲公英の綿毛である事に気づいた。
狐はいつの間にか消えていた。
己の愚かさを嘲笑しながら、俺は家に帰った。
大根しか入っていない鍋を食べる。俺はひもじい肉のない鍋が、大嫌いだ。空腹を感じながらも、俺は眠りについた。
深夜に目が覚める。ドアの外で小さな物音がしていた。
第3巻 狐の恩返し
狐を逃し、味気のない大根を食べた俺は、空腹のまま眠りについた。
狐の事も、この後に起こった出来事さえなければ、忘れていたのだろう。
夜中、ドアの外から聞こえる微かな物音に、俺は目を覚ました。
「イノシシが大根を盗みに来たのか?」
俺は飛び起き、ドアを開くと、そこに立っていたのは小さな小さな白狐だった。
暗闇に浮かぶ白は、木の葉の隙間から水面を照らす太陽のように、輝いていた。
(昼間に見た狐だ)
俺は思う。と同時に、湖に沈む宝石のような目に、心を覗き込まれる感触も思い出した。
俺は寝ぼけ眼のまま、何も持たずに狐に近付いた。
狐は微動だにせず、静かに俺が来るのを待っていた。
一歩二歩と、近付くにつれ、狐はどんどん大きくなる。
目の前まで来ると、狐は人の姿になっていた。
背が高く、スラリとした長い首と白い肌を持った人だ。
その瞳は湖のように、キラキラと輝いていた。
まるで、太陽が木の葉の間から、水面を照らしているような光だった。
(本当に綺麗だな。俺が片思いしていた子によく似ている。名前はもう覚えてないが、この目は絶対に彼女と同じ目だ)
俺は思った。
(これが狐の術か)
おかしい。なぜ俺はすぐに「狐は術を使える」と分かったのだろう。
いや、あの目を見ていればすぐに気付く。きっとそうだ。
術も狐が人になるのも、この輝く湖、宝石如く瞳とは比べ物にならない。
俺達は静かな夜の中で、何も言わずじっと立っていた。
彼女は口開き、言葉を発した。
それは共通語ではなかったが、俺には理解できた。これも狐の術のせいだろう。
「助けていただけなかったら、私は湖で命を落としていたでしょう」
彼女は少し考え込むと、再び言った。
「あの宝石のような湖で死ねるのなら、悪くありませんね」
「でも、狐は恩を返す生き物です。必ずお礼をします」
彼女は頭を下げ、俺にお辞儀をした。黒い長髪が、流れる水のように肩から落ちた。
第4巻 再会
あの夜から数日経ったが、狐は二度と現れなかった。
だがここ最近、林の獲物が段々増えてきてる。
小さなヤマガラ、足の長い鶴、せっかちなイノシシ……
季節によるものか、または狐の恩返しなのか。
ともかく、ここ数日は毎晩、本物の肉にありつけている。
だが、狐は二度と現れなかった。
腹を空かせていた頃の方が、よく眠れたのはなぜなのか。
腹は満たされているのに、気付けばあの日に会った、狐が化けた女の事を考えている。
あの湖のような瞳と、いつ再会出来るのだろう。
すっきりしない気持ちで微睡んでいると、扉の外から微かな音が聞こえた。
小さな白い姿に期待しながら、慌ててベッドから降り、扉を開ける。
そこには湖色の瞳も、柔らかな純白の尾もなかった。
ただ蒲公英が白い月明りの下で、ふわふわと雪のように浮かんでいた。
突然、何かが鼻の穴に入ってきた。
「は——はっくしょん!」
その瞬間、蒲公英の綿毛が舞い上がり、吹雪のように空を埋め尽くした。
蒲公英の吹雪の間から、あの宝石のような目が俺を見つめていた。
まるで、心まで見透かされているようだった。
漂う蒲公英を払いのけ、俺は小さな狐に近付く。
狐は耳を震わせ、大きな尾で草を払ったと思うと、林の奥に消えて行った。
俺は慌てて追いかける。
林の黒い影の間に、柔らかな白い影が時折、見え隠れする。
まるで、月明りに照らされた意地悪な精霊が、優雅に駆け回っているようだった。
狐を信じて、その後を着いてグルグルとさ迷っていると、やがて暗い林から抜け出した。
目の前に、月光に照らされた、終わりの見えない蒲公英の海が広がっている。
言葉を失っていると、背後でカサカサと音がした。
軽やかで柔らかな、少女が裸足で松葉や落ち葉を踏みつけているような音だ。
狐は俺の背後に近付く。
夜風に運ばれた彼女の息遣いは、冷たく湿っていて、蒲公英の花の微かな苦い香りが混ざっていた。
二つの手が俺の肩に置かれる。やや長い指をした冷たい手だ。
そして、彼女は俺の耳元で顔を伏せた。
長い髪が俺の肩にかかり、流れ落ちていく。
背後から時折伝わる彼女の鼓動や呼吸が、心を落ち着かせてくれた。
「ここは狐しか知らない場所。蒲公英の故郷です」
「どうかここに残って、私の子供に人間の言葉を教えてください……」
「お礼に、狐の術をお教えします」
夜風が連れてきた蒲公英が耳元を掠めたような、くすぐったさを感じる。
おかしい。
彼女には術の話をした事がないのに、なぜ知っているのだ?
彼女は何も言わずに俺の手を取り、蒲公英の海の奥へと俺を連れて行く。
南から北から夜風が吹き、微かな苦みの混じった香と、おぼろげな記憶を連れてくる。
月が登るまで、彼女は俺の手を引き、飛び舞う白い絨毯の間で狐のようにじゃれ合った。
第5巻 蒲公英の海
どの位置に存在するのかも分からない、この一面に広がる蒲公英の海を見て、俺はやっと理解した。
「狩りの途中、追いかけていた狐が突然消えたのは、ここに逃げ込んだからなのか」
俺は思う。
「本当に美しい場所だ」
だが、子狐に共通語を教えているとき、心は空っぽで風が吹き込んでいるかのように冷たかった。
彼女の湖に沈んだ宝石のような瞳を眺めながら、会話をする時も、もしかしたらこれが最後かもしれないという考えが頭を過る。
まるで、昔好きだった女の子と話している時のようだ。
だから子狐を見ていると、片思いの相手に既に子供がいたような感覚に陥り、楽しさと同時に、どこか辛くもあった。
だがあの時狐と交わした約束——ここに残り、彼女の子供に共通語を教えれば
「狐の変化の術をお教えいたします」
——そう厳かに承諾した彼女の姿を思い出すと、やる気が満ちてくる。
術を習得すれば、俺は鳥になって高い空を飛べる。一体どこまで高く飛べるのだろうか?
魚にだってなれる。そして、まだ行った事もないマスク礁まで泳いでいくのだ。
「ハハ、狩りにだって使えるぞ」俺は思った。
「肉の入ってない鍋とはおさらばだ」
風になびく蒲公英の海の中で、どれだけ待ったのか、もはやもう覚えていない。
一方、子狐の物覚えが早いのも原因の一つだろう。
言葉だけでなく、算数や大根の植え方、ガラスの張替えからナイフの研ぎ方まで、一通り教えてやった。
俺達はよく休憩中におしゃべりをした。
「どうして人の言葉を覚えたいんだ?」
すぐに返事が返ってくる。
「人に変化できるようになったら、人と友達になりたいんだ」
俺はさらに聞いた。
「なんで人と友達になりたいんだ?」
子狐は視線を下げた。
第6巻 子狐の夢
「どうして人の言葉を覚えたいんだ?」
俺は一度、子狐に聞いたことがある。
すぐに軽快な返事が返ってきた。
「人に変化できるようになったら、人と友達になりたいんだ」
「なんで人と友達になりたいんだ?」
難しい質問をしてしまったのか、子狐は足元を見る。
「遠く離れた林で、男の子を見かけたんだ」
狼みたいに顔が灰色で、目つきも狼に似ていたと子狐は続けた。
「あの時、僕は術を覚えたばっかりで浮かれていたんだ。二本足で駆け回るのはすごく面白いんだよ。でも、狐は人よりも背が低いし、見えるものも感じる匂いも違う」
「先生にも分かるでしょう? それで気付いたら、僕は迷子になっていたんだ」
当時の状況を思い出したのか、子狐の目に涙が浮かんだ。
その後、更に遠い林に迷い込み、魔物に遭遇したらしい。
食べられると思った瞬間、あの狼のような灰色の男の子が現れ、魔物を追い払ってくれたと言う。そして、男の子は何も言わずに、木々の奥へと消えていった。
「もし人になって、人の言葉も話せるようになったら、あの子を探し出して友達になるんだ!」
子狐は嬉しそうに言う。
それを聞いて、俺は思わず口を開く。
「俺は友達じゃないのか?」
子狐は大真面目な顔をした。
「お母さんが言ってたんだ。先生と生徒は違うって…でも、なんだか先生に悪いなあ」
子狐は首を傾げ、何か難しい事を考えているようだった。尻尾が悩ましそうに蒲公英を叩く。
「そうだ」
子狐が突然声を上げる。
「もし僕が先生に何か教えられるなら、僕も先生って事だよね」
「そしたら先生も先生だし、僕も先生だから同じになれるよ」
子狐はたどたどしい言葉遣いながらも、一生懸命に話した。
「僕だけが知ってる魔法、先生に教えてあげる」
第7巻 子狐の願い
「僕だけが知ってる魔法、先生に教えてあげる」
子狐はたどたどしい言葉遣いながらも、俺と友達になるために、一生懸命に説明してくれた。
そして、小さな蒲公英を摘む。
「蒲公英よ、蒲公英よ、風と一緒に遠くへ行け」
子狐が唱える。
そして、蒲公英に息を吹きかけ綿毛を散らした。
「これで先生の願いを、風が風神まで届けてくれるよ」
その時、一陣の風が吹き、大量の蒲公英を連れて行く。
「ほら、僕の願いが風神に聞こえてたんだ」
嬉しそうに子狐が言う。
「どんな願いをしたんだ?」
「もちろん、先生と友達になれますように」
子狐が突然頭を深く下げた。
「お疲れ様です。我々狐の口は人の形とは違います。この子に言葉を教えるのは、さぞ大変でしょう?」
いつの間にか、狐が俺達の側にやってきていた。
彼女の瞳は、底の見えない湖のようだった。その目に、子狐はそっと蒲公英の中に身を隠す。
「この子が人の言葉を話せるようになったら——」
俺は思った。
「この子が人の言葉を話せるようになったら——」
彼女は静かに言った。
第8巻 親狐の願い
「この子が人の言葉を話せるようになったら——」
彼女は静かに口を開いた。
俺はぼうっとその顔を眺める。
彼女がその後、何を話のかよく聞き取れなかった。
蒲公英を連れた悪戯な夜風が、その小さな声を覆い隠したのだ。
それとも、それが本来の彼女の言葉——風と蒲公英を使う言葉なのだろうか?
俺の呆けた顔を見て、彼女は笑い出した。
その笑顔はとても綺麗で、細めた瞳は湖に浮き揺れる二つの月のようだった。
「じゃあ、あなたはなぜ狐の術を学びたいのです?」
「俺は狐の変化の術を習得したい。そしたら、鳥のように空高く飛び上がり、どこまでも行ける……」
俺はそう答えた。
(はは、それなら狩りの時も茂みに隠れる必要もなくなる。鷹のように自由に空を飛べるぞ)
その後、不意にそんな考えが頭をよぎる。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、手の中の蒲公英が月に向かって飛んで行った。
「そう……」
彼女は小さく俯く。
黒い滝のような長髪が、白い首筋から滑り落ちる。
青白い月の光が髪から白い肌を伝い、まるで夜空に浮かぶ雲を見ているようだった。
そんな彼女の姿を暫く見つめていたが、頬が熱くなるのを感じてそっと視線を逸らす。
狐は自由奔放な生き物だ。人間のように謙遜して己の美しさを隠すような事はしない。
見るのも触れるのも初めてではないが、月が彼女の長髪を照らす度に、俺は顔を赤らめ、目を逸らさずにはいられなかった。
彼女は俺から顔を背けて少し考え込んだかと思うと、小さく息を吐いた。
どこか不機嫌そうな様子である。
俺達は黙ったまま、蒲公英畑の中に座っていた。
長い沈黙に、俺は彼女を怒らせてしまったのではないかと思い始めた。
「狐は恩をしっかり返すものです。あなたの願いをかなえるために、変化の術をお教えします」
俺の方を向き、狐は言った。
月光に照らされた湖色の瞳の輝きに、安堵する。
よかった、どうやら怒っていないようだ。
上手く言い表せない感情に、俺はほっと息を吐いた。
第9巻 近づく別れ
狐は聡明な生き物だ。そして、ずる賢くもある。
子狐は物覚えがよく、時折返答に困るような難しい質問も投げかけてくる。
人の言葉は純粋な獣の言葉と違い、複雑で精巧だ。
時々、言葉は猫が引っ掻いた糸束のように、あっちこっちに引っかかり、生徒の舌に絡みつく。
そして教師までをも、その中に巻き込んで行くのだ。
だが、賢い狐はすぐにいくつもの「風」を意味する人の言葉を覚え、簡単な単語で蒲公英が舞い散る様子や、月が照らす池を形容出来るようになった。
子狐が新しい言葉を発見した時、それらを使って見慣れた風や蒲公英、大地に新しい表現を加えた時、彼女はいつもそばで微笑みながら、俺達を見つめていた。
子狐の成長に、俺は素直に喜べなかった。
教える事がなくなった時、彼女は俺をこの蒲公英畑に留まらせてくれるのだろうか。
その時、俺はまたこの月明りの下で、あの柔らかな瞳と見つめ合えられるのだろうか。
彼女はまた悪戯っぽい笑顔と共に、俺と蒲公英の海の奥でじゃれ合い、一緒に北風と南風が運んで来る苦い香りを共に吸ってくれるのだろうか。
その考えに、憂鬱な記憶が蘇ってくる。
いつかは覚えていないが、好きだった子と別れた時も、今と似た月が空に浮かんでいた。
「本当にご苦労様です」
いつの間にか、狐が目の前に立っていた。
彼女が頭を下げると、黒い長髪が肩から滑り落ちる。
その柔らかな髪を月が照らし、光が水のように流れた。
「あの子が人の言葉を覚えたら、もっとたくさん、新しい友達を作れるのでしょう」
「本当に感謝しています。人の言葉を学び始めてから、あの子は随分朗らかになりました」
彼女は俺を見つめる。底の見えない瞳は、宝石のように輝いていた。
「でも、私達に人の言葉を全て教えた後、あなたはどこに行くのです?」
光を反射した水面のような瞳に捕らえられ、俺は一瞬返事する事も忘れてしまった。
これも狐の術なのだろうか?
狐は何も言わない俺を見て、笑いながら息を吐いた。
そして、月の方を向いたかと思うと、俺の手を引き月明りに輝く蒲公英の海の真ん中へと向かう。
それを見た子狐は尻尾を振り、夜に包まれた蒲公英畑へと飛び込んだ。
第10巻 約束の時
子狐は遠くへ向かいながら、何度も名残惜しそうに振り返り、俺達に手を振ってくれた。
やがて、その背中はどんどん小さくなり、最終的には白い点となって、蒲公英の海の中へと消えていった。
子狐が見えなくなると、彼女は振り返り俺に近付いてきた。
一歩二歩と、近付いてくるにつれ、狐はどんどん大きくなる。
俺の前に来た時に、狐は人の姿になっていた。
背が高く、スラリとした長い首と白い肌を持った人だ。
その瞳は湖のように、キラキラと輝いていた。
まるで、太陽が木の葉の間から、水面を照らしているような光だった。
(本当に綺麗だな。俺が片思いしていた子によく似ている。名前はもう覚えてないが、この目は絶対に彼女と同じ目だ)
俺は思った。
術も狐が人になるのも、この輝く湖、宝石如く瞳とは比べ物にならない。
俺達はどこまでも続く蒲公英の海の中で、何も言わずじっと立っていた。
やがて、沈黙に耐えられなくなった俺は口を開いた。
「それが俺に教えてくれる狐の術なのか?」
「そうです。長い間、本当にありがとうございました」
彼女は頭を下げ、俺にお辞儀をした。黒い長髪が、流れる水のように肩から落ちた。
子狐との別れは俺の心に穴を空けたが、これで変化の術を教えてもらえると思うと、胸が躍った。
術を習得すれば、俺は鳥になって高い空を飛べる。一体どこまで高く飛べるのだろうか?
魚にだってなれる。そして、まだ行った事もないマスク礁まで泳いでいくのだ。
「ハハ、狩りにだって使えるぞ」俺は思った。「肉の入ってない鍋とはおさらばだ」
「では、そのままじっとしていてください」
彼女は俺の周りをクルクルと歩く。
一周する度に、彼女の姿はどんどん大きくなっていった。
いや、それだけではない。周りの蒲公英もどんどん伸びている。
最初は足元までしか届いていない蒲公英が、今は腰の位置までに来ている。
最後は天にそびえる大木のようになった。
何かがおかしいと気付いた時には、彼女は既に巨人になっていた。
第11巻 願いの果てに
何かがおかしいと気付いた時、ようやく俺は、自分が蒲公英になってしまったのだと分かった。
抗議したくとも、蒲公英には舌も口もない。
声を出す事もかなわず、巨大な彼女が人差し指と親指で、俺を摘み取るのを黙って見ているしかなかった。
「蒲公英よ、蒲公英よ、風と一緒に遠くへ行け——」
狐は唱える。
そして、フッと蒲公英の種を吹き飛ばした。俺も暴風に巻き込まれ、遠くへと飛んでいく。
眩暈がする。湖に沈んだ宝石のような瞳と彼女の囁きが、俺の意識と共に遠ざかっていく。
「——我々を人へ変えてください、風神よ。我々が人の弓矢や刀に怯えずに済むように」
……
目覚めた時、俺は村の裏にある林にいた。
林は木々がうっそうと茂っていて、その中心に小さな湖があった。
湖は、モンド大聖堂のガラスのようにピカピカだった。
木の葉から透けた太陽が水面を照らし、砕いた宝石をちりばめたように美しかった。
それは肌寒い日だった。
弓を背負い林で狩りをして、いつの間にか湖の側まで来ていた。
輝く水面を見て、なぜか遠い昔に片思いしていた子のことを思い出す。
その子がどんな人だったのかは忘れてしまったが、なぜか彼女の瞳はこの湖のように、輝く宝石がちりばめられていた気がする。
そうだ。俺はきっとこの輝く湖に気を取られて、いつの間にか眠ってしまったんだ。
イノシシプリンセス
自分よりもまず仲間に分け与える心優しいイノシシプリンセスは、心を凍らされた子オオカミに心を痛め、知恵の狐と長寿の亀を連れて北の氷原まで救いに行く話。
第1巻 イノシシの王国
古い伝説によると、大地の草木や獣は自分たちの国を築いていたらしい。
その時代、今のモンド城の土地は森であり、そこにはイノシシの遊び場があった。
イノシシの王国はこの森にあったという。
イノシシ王の統治により、王国は豊かで幸せに包まれていた。
王には可愛い姫がいた。森で一番美しい鼻、一番白い牙と誰よりも滑らかなタテガミを持っていた。
姫は美しく優しい。彼女は毎日、最も甘くて瑞々しい果実を臣民に配っていた。
甘酸っぱいラズベリーも、甘くシャキシャキしたリンゴも、美味しそうなキノコも、姫はまず仲間にあげた。
王国の全てのイノシシが王と姫を愛していた。彼らはこう唱和する、毎日毎日。
「ふん~ふん~我が国王を祝福する、彼さえいれば、私たちが食べ物に困ることはない~」
「ふん~ふん~優しい風神に感謝する、国王にこんな素敵な姫を賜った~」
【このページの横に小さな文字が書いてある。「おとうさん、あたしがまいばん
おかしを食べないで、まいにちかみさまにいのれば、イノシシになれる?イノシシになりたい、おいしいから。」】
第2巻 北の氷原
イノシシの森の北側には、冷たい氷原が広がっていた。
その時代、まだやんちゃだったバルバトスは、その土地に行ったことがなかった。
そのため、そこは白い雪と寒氷に満ちた世界であった。
その土地に足を踏み入れた生き物は、誰もが寒さで震えてしまう。
「おおおう、寒い、寒いぞ、寒すぎて私のひづめが割れそうだ!」
最も勇敢で強いイノシシ王でさえ、氷原の寒さには耐えられなかった。
「ふんよお~ふんよお~寒いぞ、寒い。冷たすぎて私のひづめが紫だ!」
だが、そこには一匹の子オオカミがいた、その地で唯一の住民である。
【このページの一番下に拙い字で何か書いてある。「おとうさん、なんでオオカミの子はつめがわれないの?」】
第3巻 子オオカミ
以前、狼は悩みのない子供だった。明るい青の瞳と、つややかな灰色の毛皮を持っていた。
威嚇する姿は、モンド大聖堂にある狼のレリーフと同じくらい迫力があった!
だがある日、彼が森で狩りをしていると、邪悪なリス「ウーバークァ」に遭遇する。
この古い大地では、ウーバークァよりも邪悪な魔神や悪竜はいなかった。
彼は全ての美しいものを憎み、大地のあらゆる美しいものを醜くさせ、光を闇に変えようとしていた。
何の悩みもない、嬉しそうな子オオカミを見て、リスは憎しみを露わにしささやいた。
「グルル~、グルルッ!最も冷たき氷を彼の心臓にぶっ刺そう、二度と希望の光を感じられないようにしてやろう!」
そして、ウーバークァは呪文を唱え、子オオカミに呪いをかけようとした。
しかし、子オオカミが突如、ウーバークァを口の中に入れる。
ウーバークァは怒り焦った。
子オオカミの口の中で、生まれてから覚えた汚い言葉を言える限り言った。
口から変な声が聞こえてきて、子オオカミはやっと自分が何をしたのか気付く。
「おっと、ごめんなさい、リスさん、あなたは食べられるリスだと思ったよ!」
と子オオカミは心の中でつぶやいたが、そのままゴクリとウーバークァを飲み込んだ。
【付箋が貼ってあり、そこには綺麗な字で何か書いてある。「だから、リリー、外で遊ぶ時は知らないものを食べちゃだめだぞ。」】
第4巻 ウーバークァ
狼の胃袋の中で、どのような化学反応が起こったのかは不明だが、突如ウーバークァの魔術が発動した!
リスの呪いによって、極寒の氷柱が子オオカミの心臓に突き刺さり凍りつかせた。
子オオカミの心は冷たくなった。
他の動物と話す時、彼は悪口しか言わない、他の動物を悲しませるようなことしか言わない。
次第に彼は、全ての動物に嫌われるようになった。
それからというもの、森の全ての狼は彼の話をする時、必ずこんな言葉を口にする。
「ワォ~ワォ~本当に身勝手な狼、あの子が嫌いだ」
「ワォ~ワォ~そうよ、そうよ、本当に薄情な狼、誰もヤツに近づくな」
子オオカミは次々と仲間を失い、孤独になる。
彼は森に嫌われ、仕方なく北境へと移った。
北境の吹雪が吹く氷原、普通の生き物では近づかない場所。
けど凍りついた心を持つ子オオカミは、その極寒を恐れなかった。
それから彼はここに棲み着き、氷原で唯一の孤狼となった。
【このページの折り目に娘の字が書いてある。「おとうさん、でもウーバークァはどこにいったの?」】
第5巻 知恵の狐と長寿の亀
ある日、イノシシの姫は狼の話を知り、胸を痛めた。
そして姫は全ての臣民に聞いた、どうやったら子オオカミの心の中の氷柱を取り除き、元の善良さを取り戻せるかを。
その答えは、知恵のキツネと長生きの亀が知っていた——
「コンコンコン~真心と炎だけが毒悪の氷晶を溶かせる。コンコンコン~!」
とキツネが言った。
「友情に犠牲はつきもの。犠牲の上に友情は成り立つ。悪いが、私は叫ばない」
頼りになる亀じいはこう言った。
賢いイノシシ姫はすぐにその言葉の意味を理解した。
彼女は涙を拭いて、二人の賢者に礼をした。
「ふん~ふん~ありがとう。二人に子オオカミのところに同行してもらいたいの。私たちの友情の誕生を見届けてくれるかしら」
キツネと亀は姫の言葉を聞いて喜んだ。そして、姫と共に北境へと向かう。
【このページの一番下に付箋がついている、どうやら本を読んだ子供の父親が何か書いたらしい。「亀じいは礼儀正しい、叫ばなかった」】
第6巻 北の氷原へ
そこで、姫と二人の智者は北にある極寒の地にやってきた。
辺り一面が氷と雪に包まれている。
どんなに勇猛な獣でも、もしくは穴掘りが得意なイタチでも、この地では暖かな草むらも、新鮮な果実もみつけられないだろう。
あまりの寒さに、姫の体は震えた。
だが、引き返す事なく、彼女は凍える風の中へと進んで行く。
賢い狐と頼れる亀は、骨を刺すような寒さに耐えきれず、姫にこう言った。
「コンコンコン~こんな寒くて危険な場所で冒険だなんて、王が知ったら心配する。帰ろうよ、コンコンコン~」
「その通り、吹雪はどんどん激しくなっていく……少し休み、風が止んでから進むんだ。悪いが、私は叫ばない。」
だが、辛抱強い姫は二人の提案通りにせず、極寒の中を進んで行くことを決めた。
何せ、失った友人を救い出すより大切なことはないのだから。
そうして一行は、足と爪が凍てつき、吐き出した息が氷るまで歩き続けた。
氷山に流れる、氷の張った川のほとりで、姫は寒風を漂う妖精を見つけた。
古き知的な妖精は、雪山の上に住んでいた。
彼女たちは実体はないが、強大な魔力を有する。
「ふん~ふん~あなたがここの主ですか?どうか吹雪から抜け出す道を案内してくれませんか?」
姫は礼儀正しく、感覚の無くなった足を震えながら話しかけた。
知恵の狐と頼れる亀じいも、期待の眼差しを妖精に向け、凍り付いた爪で雪の中を掻きまわした。
「フーフー」
妖精は軽やかな声で言った。
「いいよ。でもフーフー」
「お返しに、君たちの体力をもらうよ。君達が吹雪の中を進めば進む程、どんどんお腹が空いて、寒くなるからね。まあ、命の危険はないと思うけど……多分ねフーフー」
(クンクン。相手は吹雪の精霊だもの)と姫は思った。
(それに、国で最も賢くて、私を気にかけてくれる人達が側にいるわ。何があっても大丈夫よ!)
姫は躊躇う事なく、精霊の要求を受け入れた。
賢い狐も頼りになる亀じいも、口を挟む隙がなかった。
「ふん~ふん~合理的な条件です!では、狼さんの所まで案内してください。」
そこで精霊は、凍える川の流氷に姿を変え、固く決意した姫を険しい雪山の反対側へと導いた……
第7巻 救われた子オオカミ
極寒の風を越えて、ついに姫は狼を見つけた。
子オオカミの全身は氷に覆われ、青い目は輝きを失っていた。
彼は吠え方すら忘れてしまったようだ。
「ウォン~ウォン~お姉さんよく来てくれたな、ちょうど昼ごはんに困っていたところだ」
その言葉を聞いて、優しいイノシシの姫は思わず泣いてしまった。
その涙で子オオカミの心の氷が少し溶ける。
「ウォン~お前、何で泣いてんだ?」
「うう~うう~お昼ごはんすら食べられないなんて、私の王国ではこんな悲惨な状況見たことないわ」
「だから、私は私の全てを犠牲にして、あなたのお腹を満たそうと思う。どう?」
子オオカミはその言葉を聞いて呆れた。
「ウォン~ウォン~お前正気か!俺の目の前で、そんなことを言うヤツはいなかった!」
子オオカミは姫の目の中に光る決意を見た。彼の心の中の氷がひとつ割れる。
「違うわ、つまり——」
「王国で最も賢くて、最もお世話になった二人の家族を犠牲にしてあなたのお腹を満たそうと思うの。私たちの友情のために!」
マズいと感じたキツネはすぐに逃げ出したが、子オオカミと姫に捕まった。
亀じいはビビって甲羅に隠れている。
子オオカミと姫は雪の中で珍味をいただいた。
洞窟でたくさんのキノコを採り、コケ植物で火を起こし、亀スープを楽しんだ。
子オオカミは初めて分かち合った友情の楽しさを知った。
心の中の氷がどんどん溶け、嬉しい涙となって溢れていく。
姫は子オオカミと手を繋いで、一緒に故郷へと戻ったのでした。
【最後のページにカードが挟まっており、そこには綺麗な字で何か書いてあった。「あなた、このおとぎ話の本は図書館に寄付した方がいいと思うわ」】
犬と二分の一
魔女の双子と犬にされた貴族ディートリッヒ・ローレンスの話
モンドでは9巻まで入手可能、10巻と11巻は稲妻の八重堂で購入します。
全11巻になってるけどストーリーは完結していない感じ。
これも続き気になる。
第1巻 貴族ディートリッヒ
周知のとおり、ローレンスは悪名高い大貴族の家系である。
貴族たちは仕事をせず、民を搾取して極めて贅沢な暮らしをしていた。
暴政、淫乱、搾取、悪事……貴族の諸行は筆舌に尽くし難かった。
民衆は貴族たちの限りない貪欲さに不満を抱えていたが、だれも口にする勇気はなかった。
ディートリッヒは貴族の坊ちゃんである。
彼はまだ若く、これまでに大罪を犯したことはないし、剣術の腕前も貴族の中では優れている方だった。
あえて欠点を挙げるなら、気性が荒く自己中心すぎる点だろう。
もっとも、それは貴族の坊ちゃんたちに共通する欠点であり、大したことではない。
しかし、彼の姓——ローレンスは、彼を「ろくでなし」に分類する運命にある。
そして今、この「ろくでなし坊ちゃん」は、人生初の悪行を行おうとしている。
先ほど彼は大魔導师の元素原論の授業をサボり、城外に遊びに行こうとしていた。
だが平民の街を通りかかった時、金髪碧眼の少女に出会った。
ディートリッヒはあの一瞬の気持ちをうまく言葉にすることができなかった。
ただ、心臓が飛び出るように鼓動し、かき消せないほど大きな音がしたことしか分からなかった。
「たぶん、お母様が猫に対して抱く感情と一緒だね。」
ディートリヒはそう自分に言い聞かせながら、思わず少女の後をついていった。
しかし残念ながら、この平民の少女は彼にまったく興味を示さず、身を明かしても顔色一つ変えず、感情の揺らぎすら見せなかった。
だから彼は決めた——夜になったら、この身の程知らずの平民の娘をさらってしまおうと。
「捕まえたらケージに閉じ込めよう!お母様が言う事を聞かない猫たちに対してするように。」
第2巻 平民の少女ノッティ
平民の少女が城に訪れたのは、風も穏やかな晴れた午後だった。
彼女の金髪はまるで春の日差しのようで、その淡い青色の瞳は、午後の陽を浴びてきらめく水面のように輝いていた。
このような可憐な姿をした少女が、魔物を避けてたった一人で山を越えて城まで辿り着いたとは、到底信じがたい。
「不審者扱いするのは、彼女の美貌への侮辱だ!」
酔っ払った兵士が群衆の中に混ざってはしゃいだ。
彼は今日の門番で一晩中飲める酒代を儲けていた。
「お前はあの女の美貌に騙されただけだ!」
隣にいる連れが茶々を入れる。
「違うっての!俺がそんなスケベじゃない!俺はこれに騙されたんだよ!」
兵士は手に持った钱袋を連れに見せた。
「やるじゃないか!よし、今日はお前の奢りだ!」
「いいぞ、奢ってやる!一杯飲んだだけで倒れるなよ!」
……
そんなわけで、このノッティと名乗る学者の少女は無事に城での生活を始めることとなった。
ノッティは話し方は穏やかで、声にも落ち着きがある。
いつの頃からか、ノッティと話すといい夢を見るという噂がささやかれ始めた。
その噂以外に、少女の到来が城の暮らしに変化をたらしたことはなかった。
住民たちには生活の苦難だけでなく、貴族からの絶え間ない搾取にも耐えねばならなかったのだから。
「やれやれ、もっと簡単なことだと思っていたが、ここまでになるとはね……」
暗い部屋の中、ノッティは首を傾げて頬杖をつき、机に向かって座っていた。
彼女の指先には何かが巻きついているようにも見える。
彼女の声は呪文を唱えているかのように、人の心を惑わす響きを帯びていた。
第3巻 闇夜の訪問者
その夜——
遠くからかすかに野獣が吠える音が聞こえる。
狼のようだ。
ノッティはベッドに座り、長い袖をめくりあげた。
そこから現れたのは、白骨の蛇の模様をした不気味な腕輪が巻かれていた。
蛇の頭はまるで生きているかのように精巧で、凄まじい牙をむき出しにしていた。
今にも獲物の喉元に飛びかかりそうな気配さえ漂わせていた。
蛇の体は彼女の腕に絡みつき、魔法ランプの冷たい光を受けながら、恐ろしい気配を醸し出す。
「おやすみ、私の可愛い妹。」
ノッティは腕輪を撫でた。その様子はまるで蛇と遊んでいるようだった。
暫くすると、魔法ランプの灯りが消え、部屋は暗闇に包まれた。
闇夜はノッティに無限の力を与える。
だからこそ、部屋に見知らぬ気配が侵入したその瞬間、ノッティはそれを察知した。
彼女には、慎重に裾をたくし上げながら手探りで進むディートリッヒの姿が、はっきりと見えていた。
今のノッティにとって、笑いをこらえるのは大規模の催眠術をかけるより難しいだろう。
ディートリッヒがすぐ目の前まで来てくれて助かったと、ノッティはそう思った。
ディートリッヒはようやく日夜想い焦がれたあの美しい瞳を見ることができた。
だが——
昼間の水面のようにきらめく淡い青とは異なり、今のノッティの瞳は夜の色に染まり、波一つ立たぬ深い海のように沈んでいた。
「この杯の水を飲みなさい。。」
その一言がディートリッヒが意識を失う直前に聞いた最後の言葉であった。
第4巻 犬になったディートリッヒ
杯が床に落ち、ディートリッヒはその場に倒れこんだ。
ノッティはそんなディートリッヒの腰から彼の剣を抜き出した。
柄を掴んで放すと、嵌っていた黒く光る宝石が彼女の掌に落ちた。
「わざわざ永夜の目を届けてくれるなんて、感謝するわ。」
そう言うと彼女は腕から蛇の腕輪を取り、宝石を蛇の口に投げ込んだ。
すると——
鱗と血肉が蛇の頭骨から一気に広がりはじめた。
やがて、ノッティの手から黒蛇がするりと地面に落ち、ぐんぐんと巨大化していく。
ついには赤い目をした黒鱗の大蛇となり、部屋のほとんどを占領していた。
ノッティが手を伸ばすと、魔法ランプが再び灯り、大蛇も再び縮まって彼女の腕に戻った。
「ん?もしかして隠れた?」
ノッティはベッドの下を調べた。
すると、ベッドの下にいたのは——
一匹の犬だった。
さっきの大蛇に驚いたのか、犬はひどく震えていた。
「本当は狼に変えようと思ったんだけど、犬になっちゃった。ごめんね!」
謝っているみたいだったが、ノッティの口ぶりからそんな雰囲気を感じることは少しもなかった。
ディートリッヒはまだ何が起こったのか分からないまま、ただ本能的にベッドの下に隠れていただけだった。
ようやく我に返ったとき、彼はノッティの言葉を聞いて、何かを言おうと口を開いた。
しかしいくら全力で叫んでも、「ワンワン」という声しか出なかった。
自分の声にびっくりしたディートリッヒは、慌てながらベッドの下から飛び出した。
どれだけ鏡の前で飛び跳ねようと、どれだけ悲鳴を上げようと、この貴族の坊ちゃんが元に戻ることはないだろう。
ディートリッヒはノッティに牙を剥いて飛びかかる。
しかし、ノッティは動じず、腕を組んで彼を一瞥しただけだった。
その瞬間、ディートリッヒの体はピタリと止まる。
どれだけもがこうとも、それ以上進むことはできなかった。
「レディに対する態度じゃないわね。本当はすぐに帰してあげるつもりだったけど……どうやら、君には少しお仕置きが必要みたいね?」
第5巻 暗夜の魔女ノットフリガ
「改めて自己紹介するわね。私はノットフリガ。もしかしたら、私の肩書きの方が有名かしら。『暗夜の魔女』って、よく呼ばれているの。」
ノットフリガがそう話すと、彼女の金髪は徐々に暗くなり、やがて深い闇へと変わっていった。
それはまるで、彼女の髪が窓の外の夜に溶け込んでいくかのようだった。
青空のような瞳も黒夜を迎え、漆黒に染まった。
「これからは、私があなたのご主人様よ。もちろん、あなたは私が責任を持ってしつけてあげるわ。」
ノットフリガはしゃがみ込み、どこから取り出したのか、ディートリッヒに首輪をつけた。
逃れようと必死に身をよじる彼に構わず、首輪はじわじわと縮まり、ぴたりとその首に固定された。
頭を振っても、爪で引っかいても、びくともしない。
「ふぅ、ずいぶん時間を無駄にしたわ。さあ、行くわよ。」
ノットフリガはすっと立ち上がり、城外へと歩き出した。
ディートリッヒは必死に、貴族の屋敷がある方向へ逃げようと踏ん張るが、無駄だった。
しかし、首輪の不思議な力により、彼はノットフリガに逆らうことはできなかった。
ノットフリガは嫌々ついてくるディートリッヒに一瞥をくれると、指先で髪をくるりと巻いた。
「君が足掻く姿はなかなか愉快だけど、うるさすぎるのは困りものね。新しく開発した『静寂の夜』っていう魔法があるんだけど、それを私に使わせたくなければもう吠えるのはやめることね。」
その瞬間、まるで世界が音を失ったかのような静けさが広がった。
直感が告げていた。
絶対に彼女の実験対象になってはいけないと。
第6巻 魔女のスープ
ディートリッヒはローレンス家の崩壊を目の当たりにしていた。
母親が飼っていた猫はとうに行方知れずになっていた。
魂が抜けたような父とヒステリックな母がすぐそこに見えるのに、どれだけ呼んでも振り返ってくれない。
「ワン…」
ディートリッヒがうなだれると、地面が突然壊れ、ひび割れた床から老婆のような両手が伸び、彼の首輪を強く掴んだ。
ただ落下している事しか感じず、最後は老魔女の隣に転び倒れた。
気づけば、彼の身体は下へ下へと引きずり込まれ、ついにはその老婆の足元へと落ちていた。
不思議なことに、痛みはなかった。
首輪に何かが引っ掛かり、ディートリッヒはそのまま宙づりにされる。
視界は殆ど真っ暗で、ただ足元だけははっきりと見えた。
そこには、蒸気を上げる大釜があり、黒く得体の知れない液体がぐつぐつと泡を立てている。
中には固形物も混じっており、目に見えるだけでも——蜘蛛の糸、毒蛇の骨……
その時、ノットフリガの声が聞こえた。
「ああ、ようやく最後の材料がそろったわ。君を入れれば私の不老不死のスープが完成するの。ハハハ!」
「ワンワンワン!」
クソばばぁめ、俺を放せ!
ディートリッヒは必死に足掻く。
すると、あれほど外れなかった首輪がするりと外れ——
「ワン——!!」
そのまま、彼は釜の中へと落ちた…
何も聞こえなくなった。
聞こえるのは、風の唸り声とノットフリガの狂ったような笑い声だけだった。
第7巻 魔女の妹マダリーネ
「起きて——」
ディートリッヒは、体を誰かに優しく揺すられているのを感じた。
「大丈夫?」
誰かの手が、鼻先にそっと触れて息を確かめる。
——この声は……。
春風のように優しく、陽だまりのように暖かい。
その声に導かれるように、ディートリッヒは目を見開いた。
ディートリッヒは目を開けた、そこに居たのは——
金髪で青い瞳の少女。
「良かった、やっと目が覚めたんだね。」
少女は微笑んだ。
「ここは…まさか…天空の島なのか?」
「違うよ、ただの普通の森だよ。」
ディートリッヒはようやく意識がはっきりしてきた。
目の前の少女は——憎き老魔女ノットフリガだった!全
身が震え始め、すぐさま後ろに飛び退いて、警戒姿勢を保った。
「そんなに緊張しないで。傷つたりしないから。ああ、そうだ、まだ自己紹介をしていなかった。マダリーネよ。ノットフリガの妹だよ。」
少女は優しく語りかけると、背後に組んでいた指をくるりと回した。
——光魔法の安神の術だ。
そして、ディートリッヒに近づき、こう言った「よしよし、これで良しっと。」
ディートリッヒはようやく落ち着きを取り戻す。
「(どうしてこの子、僕の言葉がわかるんだ?)」と疑問に思っても、口から出るのは「ワンワンワン」ばかり。
「うーん?こんなの簡単な魔法で解決できるわよ。お姉ちゃんもできるよ。」
「ワン、ワンワン!?」
(つまりあの老魔女、言葉が分からないふりをして、俺を弄んだのか!?)
「うーん、でもお姉ちゃんは実は優しい人なんだ。」
ノットフリガの話になると、マダリーネはまた柔らかく、花が咲くような笑顔を見せた。
ディートリッヒは……何も言えなかった。
第8巻 心鬼の髄
「魔女というのは知能と引き換えに強力な魔法を得るのか?…」
ブツブツ喋る金髪の少女を横目に、ディートリッヒはそう思った。
「まぁ、そんな言い方しないでよ!もしお姉ちゃんが聞いてたら、きっと怒るよ。」
マダリーネはディートリッヒに向けてうつむき加減にそう言い、声もだんだんと小さくなった。
「ワンワンワン?」
(それなら、言わなきゃいいだろ。待てよ、何で俺の考えている事がわかるんだ?)
「残念でした〜、も・う・手・遅・れ♪」
ディートリッヒはぞっとして顔を上げた。
頭上に、目に見えない圧がぐっとのしかかる。
確かに見た目は変わっていないが…
しかし…
ディートリッヒは、目の前にいる少女が既に別人である事を確信した。
「さっきの悪夢、少しは効いたみたいね。まぁ、まだ私が期待値したほどではなかったけど。」
いつも通りの高慢で冷たい口調。確かにノットフリガだ。
「じゃあ、『心鬼の髄』はとりあえずお前の所に預けておく。」
「心鬼の髄」って何なんだ…
——いや、さっきマダリーネもそれに似たことを言ってた気が…
「怖がらなくていいわよ。さっきの悪夢は全部偽物だったの。お姉ちゃんが『心鬼の髄』をあなたの中に入れたせいで、あなたの一番の恐怖が映し出されただけ。」
「でもきっとお姉ちゃんは君の為にやったんのよ。だって、お姉ちゃんはとても優しい人だから。」
…
ディートリッヒは全身に鳥肌が立った。
ノットフリガをちらっと見たが、もはや心の中でさえ、迂闊なことは考えられない。
「ふふ、どうやら私の“しつけ”は効果があったようね。それじゃあ、旅を続けましょうか。」
ディートリッヒの怯える姿に、魔女はご満悦のようだった。
第9巻 美しいマダリーネ
ここは果てしなく広がる辺境の森、
薄い霧がふんわりと林の中に立ちこめ、金の糸のような朝日が繁った枝葉の隙間から差し込んでくる。
その光は、緑の大地に、静かに降り注いでいた。
その時、マダリーネは犬を抱えていた——そう、ディートリッヒである。
金髪の少女は、優雅な白鳥のように軽やかに、絡み合った巨樹の根を踏みながら、森の中を歩いて行った。
「今がマダリーネでよかった。もしノットフリガだったら、俺を自分で歩かせるに違いない。それどころか、魔法で俺を無理矢理走らせるかもしれない。ていうかこの道、犬用どころか人間でも無理じゃないか?そもそも道がない、ほとんど木だ…はぁ、マダリーネがずっと抱えてくれたらいいのに…」
ディートリッヒはそう思いながら、マダリーネの顔を見上げた。
朝日が木漏れ日のように少女の顔を照らしては揺れ、また隠れた。
どんな貴族の娘にも劣らぬ美貌。
白い肌に、やわらかく穏やかな瞳。
その姿には、どこか儚げな雰囲気があって
——まるで花びらに宿った朝露のように、今にも消えてしまいそうな繊細さがあった。
「マダリーネの肌は本当に白いな…今まで見てきたどの貴族よりも…」
ディートリッヒは少女に見とれながらそう思った。
「一つ君に教えてあげる。実はね、私はもう死んでるの。」
マダリーネはふいにそう言った。
第10巻 双子の魔女
昔々、ある魔女が双子の娘を生んだ。
魔女の家系は同時に二人に後継することは許されない。
これは強大な魔力を得るための代償だった。
だがこの魔女は黒魔法において頂点に達していた。
彼女は自らの命を捧げることで、ふたりの娘を守り抜いた。
己の生命力そのものを供物として。
だが、それは長くは続かなかった。
魔女の生命力が尽きた時、別れが訪れた。
魔女は安らかに、永遠の眠りについた。
生き残った姉のノットフリガがすべてを背負うことになった。
妹のマダリーネが死んだのは自分のせいだと思った。
ノットフリガは魔女の黒魔法の才能を継承していた。
彼女は自らを器として、複雑な魔法陣や難解な呪文を用いて、マダリーネの魂をこの世から抽出することに成功した。
そして、高塔に残された魔女の書簡をすべて読んで、黒魔法と錬金術を融合させて、新たな肉体を創り出した。
けれど魂を新たな肉体へ宿し、蘇らせることは、光魔法の禁忌であり、ましてやノットフリガは光魔法の知識など皆無だった。
それでも、ノットフリガのマダリーネを想う執念は、ついに答えに辿り着いた。
彼女は作った体を蛇の腕輪に変形させ、自らの腕に巻きつけた。
「私のかわいい妹、これが終わったら、私たちはずっと一緒にいられる……」
第11巻 遠くへ
最後の一筋の光がゆっくりと消えていき、やがて闇が森全体を覆おうとした。
「お姉ちゃんの番だよ」
マダリーネがいきなり抱えていたディートリッヒを下ろした。
「そうだ、もう一つプレゼントをあげよう。お姉ちゃんもきっと喜ぶ」
少女の指の隙間から光が滲み出て、徐々に眩しい光のかたまりになった。
マダリーネが光魔法を発動したのだ。
「はい、いい子にしてるのよ。しー、喋っちゃだめだよ。」
「何だよ、意味わかんない……んぐっ」
ディートリッヒが状況を理解できず、文句を言いかけたその時、細く白い手がディートリッヒの口を塞いだ
一瞬にして、誰かが口の中に何かを押し込んできた。
「これは——」
剣の柄だ、彼の剣の。
かつて誇り高く、彼の腰にさげていた剣。
「!?」
ディートリッヒが何か喋ろうとして、本能的に口を開けようとしたその瞬間——
「死にたくなければ、しっかり咥えておきなさい」
ノットフリガが虚空に向かって手をのばす。
ディートリッヒは首輪が急に締めつけられ、息もできないほどになった。
抵抗もできず、彼はただ必死に歯を食いしばるしかなかった。
「その剣で自分の身を守りなさい。無能なお坊ちゃんだけど、ここで死なれたら困るんだから——」
ノットフリガはディートリッヒを頭を持ち上げて、低い声で言った。
「まだ教えることもあるからね。簡単に死なれたら、私の楽しみが減るもの。」
暗夜の魔女がそう言うと、手を引っ込めて、コートを軽く整えた。
すると、首輪の締めつけが緩み、空気が鼻や牙の隙間から一気に肺に流れ込んだ。
ディートリッヒは剣を口にくわえたまま、鼻で必死に呼吸を整えた。
……と、その時。
遠くの方から、何かが近づいてくる不穏な音が、森の静寂を破って響き始めた——。
白姫と六人の小人
白姫と六人の小人 – 原神 – HoYoWiki
テイワット各地に古くから伝わってきた童話。
リサさんの伝説任務でアビスに盗まれた童話。
何やら秘密が隠されているらしい。
Ver.5.5時点で全7巻と記載があるが、実装されているのは1巻のみ。
街の人を見ていると、青色の瞳ってモンドの人に多いですよね。
第1巻
昔々、遥か遠い夜ノ国、夜母は全ての臣民を統治していた。
夜ノ国は死んだように静寂な土地であった。
そこの大地は光を浴びられず、植物もない。
暗闇に潜む醜い造物以外、生き物は夜ノ国に存在しなかった。
夜母は全ての罪悪の根源で、そして夜ノ国はまさしく夜母から流出した汚水のようであった。
冷酷非情の夜母は口も心もなかったが、常に目を大きく見開き、夜ノ国を観察し、そして前触れもなく兆しのない残忍な懲戒を下す。彼女が唯一許さないのは重なった雲から漏れてきた月の光である。
よそから来た、重なった黒壁を突き抜けた光が憎いから。
月光の森が唯一、夜母の統治から逃れた国であった。
ここでだけ、人々は皎潔な月光が見られ、月光が生き物にもたらした恵みを感じられるという。
月光の森王国の人は肌が白く、淡色の髪と薄青色の瞳を持つ。
太陽の光を浴びられずにいたことが原因なのかもしれない。
しかし、月光の潤いによって、彼らは森の外の醜い造物とは全く違う。
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